開催地で起きたあの事件
地球だより
来月に迫った平昌冬季五輪の下見がてらアイスアリーナなどの氷上競技会場が集まる江陵(カンヌン)に昨年末開通の韓国高速鉄道(KTX)に乗って行ってきた。北朝鮮の五輪参加表明でにわかに南北融和ムードが広がり、「平和の祭典に相応(ふさわ)しい」と期待する声も聞かれる。
だが、江陵はかつて韓国人誰しもに戦慄(せんりつ)が走った事件のあった場所だ。1996年、偵察目的の北潜水艇が座礁し乗っていた工作員ら26人が脱出して上陸、掃討作戦に乗り出した韓国軍との銃撃戦の末、北朝鮮側24人、韓国側も民間人を含む17人の死者を出した。
その座礁潜水艇は全長35メートルのいわゆる「サメ級」で、今も現場近くの公園に展示されている。中をのぞくと天井は低く、狭い通路の両脇には音波探知機など各種機器が所狭しと並んでいる。寝室は黒焦げで、証拠隠滅のため脱出の際に放火されたのだという。
潜水艇の傍(そば)には長さ13メートルのオンボロ木造船が展示されている。こちらは09年に韓国亡命を果たした北住民11人が乗っていたもので、近年、日本海沿岸に相次ぎ漂着している北木造船にそっくり。天候や海流の具合で一つ間違えば日本まで流されていたかもしれない。
五輪で江陵を訪れる人には公園まで足を延ばし、南北の厳しい現実にも目を向けてほしいものだが、今の文在寅政権に広報する気はないだろう。何せ核・ミサイルの脅威にもどこ吹く風で、合同入場行進や単一チーム、北美女軍団の応援などの実現に躍起なのだから――。
(U)