“モレシゲ検事”の危機


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 洪準杓(ホンジュンピョ)検事を育てたのは、腐敗との戦争だった。1993年、金泳三政府が発足し、洪検事は検察総長(検事総長に相当)を目指す上官の李健介氏を落馬させ、前政権で飛ぶ鳥を落とす勢いだった朴哲彦議員を逮捕した。証拠が貧弱だったが、洪検事は「収賄事件の80%は物証がない」と言って押し切った。国民は彼の「清い手」に魅了された。(洪検事が主役のモデルとされる)テレビドラマ『モレシゲ(砂時計)』が人気に火を付けた。『モレシゲ』は当時、“キカシゲ(帰宅時計)”ドラマだった。放送時間になると、街路から人が消えた。政治家に変身した時、彼はこう言った。「僕は何も持っていないので、失うものもないし、恐れるものもない」。

 政界で洪準杓のスタイルは非主流だった。国会議員時代には「僕は永遠のアウトサイダー!」だと常に語っていた。権力を享受したり、既得権を守りながら政治をしないという意味だ。誰かを突き上げて挑戦するのが彼の体質だ。“特攻隊”と呼ばれたのはそのためだ。

 政治家らしくなく周りと対立するので、誰も面倒を見てくれない。彼は法務長官(法相)を願ったが、兄弟のように親しくした李明博大統領は労働長官(労働相)でもやれといった。望む閣僚になれないので、党内で孤独な闘いを続け、独力で党代表や慶尚南道知事(現職)となった。この過程でカネと関連した悪いうさわはなかった。政治家ファミリーがないのが幸いしたわけだ。

 そんな洪知事の名前が“成完鍾リスト”(自殺した京南企業会長の贈賄疑惑リスト)に上がった。1億ウォンの現金が渡されたという。“モレシゲ検事”の履歴からみると驚くべきことだ。“親朴”実力者の名前がずらりと並ぶリストに、彼が入っているのも不自然だ。記者出身の某氏が使いとなって現金の受け渡しをしたというが、洪知事は否定している。2011年、党代表選挙関連の疑惑は今回が初めてではない。当時の野党は「建設業者の某氏が約20億ウォンの資金を支援した」と主張したが、物証がないので、うやむやになった。今度も同じ流れで終わるのだろうか。

 彼によって20年前の“昇る太陽”は瞬く間に“闇夜の月”におとしめられた。今度はその“モレシゲ検事”が朴槿恵印の腐敗との戦争で流弾を受けている。韓国政治で20年の時差はどんな意味があるのだろうか。確実なことは、いくら恐ろしい剣の使い手でもいつかは斬られる立場になるということだ。権力の時計は同じ場所にとどまったまま回り続けるだけだ。

(4月13日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。