北、国連に「麻薬報告書」を提出せず
「国際麻薬乱用撲滅デー」の26日、国連薬物犯罪事務所(UNODC)はウィーンの本部で「2014年世界麻薬報告書」を公表した。それによると世界の成人人口(15歳から64歳)の約5%に相当する2億4300万人が2012年、不法麻薬を摂取した。麻薬中毒者数は約2700万人で世界成人の約0・6%だった。また、麻薬関連死者数は約20万人だ。
フェドートフ事務局長は、「麻薬対策を成功させるためには国際連帯が必要だ。麻薬の需要と供給問題では、防止、治療、社会復帰と統合などを考慮したバランスのある包括的アプローチが大切だ」と述べている。
当方はUNODCの麻薬問題専門家に北朝鮮の麻薬問題について質問した。読者のために北朝鮮と国際麻薬条約との歴史を簡単に紹介する。北朝鮮は2007年3月、麻薬関連の3つの国際条約に加盟した。北が加盟した国際条約は、「麻薬一般に関する憲章」(1961年)、「同修正条約」(71年)、「麻薬および向精神薬の不正取引に関する国際条約」(88年)の3件だ。
北が麻薬条約に加盟したことを受け、国際麻薬統制委員会(INCB)のコウアメ事務局長は当時、「北朝鮮政府が加盟国となったということは、国際条約の義務を履行する決意があるからだ。平壌が国際条約加盟国として真摯にその義務を履行すると確信している」と述べ、大歓迎したものだ。「国家ぐるみで麻薬犯罪に関与」を疑われてきた北が国際麻薬条約に加盟したことは世界を少なからず驚かせたものだ。
UNODC担当の北外交官は当時、「わが国内では欧米諸国のような不法麻薬の乱用は皆無に等しいが、海や国境線を越えて不法麻薬がわが国に密輸入されるケースはある。そのために、密輸入対策や関税当局の対応が急務となる。UNODCにはそれらの技術支援を要請しているところだ」と説明し、「米国は過去、わが国が国家ぐるみで麻薬密売に関与していると批判してきたが、全ては中傷誹謗に過ぎないことが実証されたはずだ」と主張したものだ。
そこでUNODC麻薬専門家に「北加盟後7年目の成果」について質問した、というわけだ。同専門家は、「残念ながら北側から年次麻薬報告書が提出されたことがない。質問事項を送付したが、何の返答も記述されずに戻ってきた」という。UNODC加盟国は毎年、自国の麻薬状況、統計などを報告する義務を負っている。にもかかわらず、北側は加盟後、一度も自国の麻薬関連報告をウィーンに送ってきていないというわけだ。
当方は「義務履行の違反として北に制裁を行ったのですか。例えば、加盟国の資格停止といった制裁などです」と聞くと、「UNODCは加盟国に対する制裁条項がない。国際条約の履行を監視しているINCBには制裁事項があるから、加盟国に対して制裁を科すことはできるが、INCBが北に制裁を実施したとは聞かないね」という。
「条約違反国に対し何もできないというのでは仕方がないですね」というと、専門家は「UNODCとの連携を拒否しているのは北朝鮮だけではない。残念ながら、君の日本もそうだよ」というではないか。聞くと、「日本がUNODCに提出した年次報告書の中で『北から密輸された合成麻薬が日本国内で拡大している』と記述されていた個所があったので、日本側に詳細な情報提供を要請したことがある。しかし、日本側からは何の返答もなかった」というのだ。
UNODC事務局長が指摘するように、麻薬問題はもはや一国では解決できない。国際社会の連携が不可欠だ。報告書の提出義務を無視する北側はもちろんだが、UNODCの情報提供要請に応じない日本側も協調性に欠けると批判されても仕方がないかもしれない。
(ウィーン在住)