パンツ姿の船長と16歳の高校生
掲載日程上、一日遅れとなったが、久しぶりに心温まる記事を読んだ。読売新聞記者が韓国で一人の英雄を見つけたのだ。
先ずはその電子版記事を読んで頂きたい。
【安山(韓国北西部)=田中浩司】韓国の旅客船「セウォル号」の沈没事故で、船体が沈みかけていることをいち早く通報した檀園高校(京畿道安山市)2年のチェ・ドクハ君(16)の両親が29日、安山市内の自宅で読売新聞の取材に応じた。
ドクハ君は船内から遺体で見つかったが、両親は「174人の救助に役立った息子の行動を誇りに思う」と話した。
海洋警察などによると、ドクハ君は16日午前8時52分、携帯電話で全羅南道消防本部に「済州島に向かっている船が沈んでいる」と通報した。電話を受けた消防と海洋警察が救助船やヘリコプターを派遣した。ドクハ君は船内に取り残され、23日、4階船尾部分から遺体が見つかった。救命胴衣は着ていなかった。
ドクハ君の通報は、セ号が「本船は危険。船が倒れる」と事故の第一報を海洋警察に通報した時より3分早く、セ号が通報した時にはすでに救助船が出発していたという。
数日前、パンツ姿で救援船に移るセウォル号船長の写真が世界に発信され、冷笑をかったばかりだ。その写真を見て、当方もちょっとがっかりしたが、韓国国民はそれ以上に怒りと痛みを感じただろう。その直後、16歳の高校生とその両親の話が報じられたわけだ。
チェ君の両親は「174人の救援に役立った息子を誇る」と、記者に答えたという。息子を失った両親はそのように考えることで自身を納得させ、悲劇を乗り越えようと懸命なのだろう。両親の発言は感動的だ。同時に、「犠牲となった息子を誇る」という発言は韓国国民を奮い立たせ、生きる力を与えるのではないか。
旅客船沈没事故が発生して以来、韓国社会では「遭難に会った国民を救えない政府」、「事故対策のまったくない旅客船会社」といった批判とともに、国民自身もやりきれない憂鬱さに打ちひしがれてきた。16歳の高校生とその両親の言動は小さな光を灯すかもしれない。
200人以上の遺体が見つかり、まだ多くの行方不明者がいる。事故には技術的、人為的な問題が浮かび上がっている。事故の全容解明までまだ時間がかかるだろう。
なお、ソウルの知人の話によると、チェ・ドクハ君のように、他の人を助けるために最後の力を振り絞ってがんばった高校生や関係者がいたという。
韓国国民は小さな英雄がわずかでもいたことを誇りとし、今回の悲しみを乗り越え、相互の連帯感を強めていってほしい。
(ウィーン在住)