盛り上がり欠く改憲世論「拝啓 読売新聞社様 もっと国民に呼びかけよ」

◆責任の一端、読売に

 安倍新内閣がスタートした。「第4次安倍再改造内閣」と新聞にある。改造を重ねた数から通年8年の長期政権の実感が改めて湧く。

 共同通信(11、12両日の電話調査)によると、安倍内閣の支持率は55・4%で、8月の前回調査から5・1ポイント増えたという。新内閣への“祝儀”や環境相に就任した小泉進次郎人気を差し引いても、まずまずの高さだ。

 安倍晋三首相は記者会見で憲法改正を「自民党立党以来の悲願」とし、「必ず成し遂げていく」との決意を語ったが、安倍政権の下での改憲には反対47・1%、賛成38・8%で、いまひとつ盛り上がらない。

 こうした世論を踏まえてか、読売の特別編集委員・橋本五郎氏は安倍首相に対して改憲発議に必要な国会での3分の2の確保にばかり奔走している感じがするとし、「拝啓 安倍晋三様 もっと国民に呼びかけよ」と注文を付けている(12日付)。

 確かに発議後の国民投票が改憲の成否を決するから、この指摘には合点がいく。だが、改憲世論の盛り上がりに欠く責任の一端は読売にもあるのではないか。新聞は「社会の木鐸(ぼくたく)」とされるが、読売紙面に世人を覚醒させるような改憲論が見受けられないからだ。

◆改憲に燃えた時期も

 かつて読売には改憲に燃えた時期があった。1992年に社外の専門家による憲法問題調査会(猪木正道会長)を設置し、1年間の論議を重ねて同年末に「第1次提言」を作成。これを踏まえて翌93年に社内のプロジェクトチーム「読売新聞憲法問題研究会」を設け、94年11月に「読売改憲試案」を発表し、世に一石を投じた。

 当時は東西冷戦が終焉(しゅうえん)したものの、湾岸戦争が勃発するなど国際秩序が激変し、日本の立ち位置や国家像が問われた。そうした中で、新聞社それもわが国最大部数を誇る読売が戦後タブー視された改憲に切り込んだインパクトは大きかった。

 マスコミ各社は本来、言論機関であるが、民間企業でもあるがゆえに商業主義に陥りやすい。部数を維持・拡大するために「敵」をつくることを恐れ大衆に媚(こ)びる傾向がある。それを読売は言論機関として「物を言う」姿勢を鮮明にした。改憲試案の中身には批判もあったが、自衛力保持を条文に提示したのは安倍私案の先駆と言ってよい。

 その直後の95年に阪神大震災と地下鉄サリン事件が勃発し、国民の危機意識が高まった。読売の憲法問題に関する世論調査では緊急事態条項への賛成は90・2%に達し、反対はわずか6・4%にすぎなかった(読売95年4月6日付)。これを踏まえて読売は2000年5月の2次試案で緊急事態条項を新設した。これも自民党が提唱している改憲4項目に通じる。

 ところが、政治が読売の改憲熱に応えなかった。当時は自社さ連立政権、それも社会党委員長の村山富市首相だったので自民党は沈黙した。その後も自民党は改憲消極派の公明党と連立を組んで政権を維持。09年には護憲の民主党政権が登場し、改憲論議は低迷した。それが12年に自民党が政権を奪還し、安倍首相が改憲論議に火を付けた。

◆「試案」再び世に問え

 これに呼応したのは産経だった。13年4月に産経改憲案(「国民の憲法」要綱)を発表し、安倍首相の改憲姿勢を後押しした。今回の内閣改造でも「憲法改正に不退転で臨め」(12日付主張)とエールを送っている。ところが読売にはそんな熱気はない。社説などに改憲論があるにはあるが、キャンペーンを張るでもなし、もっぱら安倍首相の後追いだ。どうも最近、部数維持に汲々(きゅうきゅう)としているのか、世論を気にしてか、当たり障りのない紙面作りが目立つ。そう感じるのは筆者一人だろうか。

 そんなわけで橋本氏の安倍首相への注文をそっくりお返ししたくなる。「拝啓 読売新聞社様 もっと国民に呼びかけよ」。少なくとも読売改憲試案を再び世に問うてもよいはずである。

(増 記代司)