特集「絶望の日韓」で両国の「法と正義」の観念の違い指摘したエコノミスト
◆負の遺産で経済動揺
戦後最悪の状況に陥ったとされる日韓関係。韓国では連日、反日デモが繰り返され、日本製品の不買運動が広がっている。文在寅大統領は以前でも不買運動や反日デモはあったが、それらは短期間のうちに収束した。しかし、今回は様相が違う。日本の外務省は8月4日、韓国内の「光復節」(8月15日)でデモがヒートアップし、その余波で在留邦人や日本人旅行者に危害が及ぶ可能性があるとして注意を呼び掛けたほどだ。
そんな中でエコノミスト(9月3日号)が日韓関係で特集を組んだ。タイトルは「絶望の日韓」。リードでは「日本が韓国を貿易の優遇対象から外すと、韓国も対日輸出規制を発動。両国の歴史に横たわる負の遺産が経済も揺さぶっている」とつづる。
朴槿恵前大統領の時代もそうであったが、2015年に文在寅大統領が就任して以来、日韓関係は悪化の道をたどっている。18年10月、日本の最高裁に当たる韓国大法院が「元徴用工」に対し日本企業への損害賠償請求を認める判決を下す。翌月には「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」とした日韓慰安婦合意で設立(15年)された「和解・癒し財団」に対する解散の決定。さらに同年12月、韓国海軍の駆逐艦から日本の海上自衛隊機に火器管制レーダーを照射するレーダー照射事件が起こるなど、反日攻勢を強めていった。
◆大きい朱子学の影響
一方、日本側は事件が起こるたびに韓国政府に抗議を続けてはきたが、具体的な措置としては、今年7月の半導体関連3品目で韓国に対し、これまでの包括的輸出許可から個別的輸出許可とすることで厳格化し、翌月には、韓国を輸出手続きで優遇対象とする「ホワイト国」から除外した。これに対し、韓国は間髪入れずに軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄することを通告してくる。果たして今後、友好な関係が構築できるのかと考えると確かに「絶望」といった気分になるのもうなずける。
こうした状況にエコノミストは、元駐日韓国大使の申(シン)★秀(ガクス)氏を登場させ、分析・提言させる。申氏は現在の日韓関係を「多重複雑骨折」状態にあるとし、悪化の原因として「日本と韓国で『法と正義』の観念が違う」ことを挙げる。すなわち、「日本は法に対してまずは守るべきだという認識が強いのに対して、韓国では正義に反する法は守っていなくてもいいという考え方があり、そこにカルチャーギャップがある」と指摘する。
日本はよく国家の基本を「法」に置く「法治国家」という言葉を使うが、韓国は「法」よりも「正義」がそれを凌駕(りょうが)するというのである。この辺が日本人には理解できないところなのだが、多分にそれは李氏朝鮮時代に培われた朱子学の影響に負うところが大きい。
◆韓国社会の意識変化
エコノミストでは、澤田克己毎日新聞外信部長が「日本の一部には、『文政権の間は(日韓関係の修復)は難しい』という考えがあるが、それは現実から目をそらした空論に過ぎない」とし、「対日外交に大きな影響を与える韓国社会の意識変化には、大統領の個性ではなんともしようのない不可逆的な部分が大きい。それを認識した上で、韓国との関係を適切に管理する方策を考える必要があるだろう」と説く。韓国の経済成長と日本の相対的な重要度の低下、さらに儒教的な理念重視の伝統的思考すなわち「正義」を重視する国民気質とそれを形成した歴史的背景を認識すべきだというわけだ。
もっとも、「文政権では日韓関係の修復は無理」というのもあながち間違ってはいない。ゴリゴリの左派で内政的には反保守、対外的には反日反米、しかも親北親中、目指すゴールは朝鮮半島統一という“教条主義”的な思考回路では日韓関係改善の余地は見えてこない。仮に日本との対話を求めて来るとすれば、それは韓国内の経済成長が鈍化し、国民が離反した時と思うのは私だけではあるまい。
(湯朝 肇)
★=王へんに玉