サウジ人記者カショギ氏殺害事件の真相究明を求める米ニュースサイト

◆消極的な米政権非難

 サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏が昨年10月、トルコで殺害された事件をめぐって、国連のカラマール特別報告者(司法手続きを経ない処刑担当)が19日、調査報告書を公表した。サウジのムハンマド皇太子の関与を示す「信頼に足る証拠」があるとして、捜査継続の必要性を訴えており、サウジとの関係を優先し、捜査に及び腰の米トランプ政権を牽制する内容になっている。

 調査報道で定評のある米ニュースサイト「インターセプト」は、この報告は、サウジ政府、ムハンマド皇太子にカショギ氏殺害の説明責任があるとする世論を後押しするものと指摘した。米情報機関は事件の1カ月後に、皇太子の関与の可能性があるとの結論を出しており、報告はその内容とほぼ同じだ。

 だが、「殺害の詳細に及ぶ、ぞっとするような報告の指摘にもかかわらず、この明確な主張は無視されることになりそうだ」と、真相究明に対し悲観的な見方を示している。

 事件当初から、トランプ大統領はサウジ政府と皇太子を擁護し、米情報機関が皇太子の関与の可能性を指摘しても、それを否定した。インターセプトは、「トランプ氏の明確なサウジ政権支持に超党派での反対の声が上がったものの、今のところ政権が優勢だ」と捜査に消極的な米政権を非難している。

◆サウジ擁護続ける米

 サウジでは、ムハンマド皇太子の下で、反政府活動家、政府に批判的なジャーナリストが収監されるなどの弾圧が強まっていることが伝えられている。カショギ氏は、殺害される前年から米ワシントンに住み、米紙ワシントン・ポストでサウジ政府の人権軽視を糾弾しており、それが皇太子の反感を買ったのが、殺害の動機だろう。

 インターセプトは、米国が同調しなければ、「国際的な非難があっても、サウジの行動に影響を及ぼすことはできない」と米政府の行動を求めている。しかし、米政府によるサウジ擁護は今も続いている。米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が18日、報じたところによると、ポンペオ米国務長官は、イエメン内戦で、サウジ率いる連合軍で少年兵が使われているという国務省の専門家の指摘を無視し、少年兵を募っている国のリストにサウジを含めることを拒否した。

 インターセプトはこれについて、「トランプ政権が、サウジの覇権による戦略的利益を優先し、人権をめぐる懸念を軽視していることを示すもう一つの例だ」と米政府の対応を非難した。

 イエメン内戦では、武装勢力フーシ派とサウジとの戦闘が激化しており、「世界最大の人道危機」は一層悪化している。インターセプトは、「この傾向はさらに加速している」と警鐘を鳴らす。

 昨年の米国による核合意離脱に端を発したイランとの緊張は「最高潮に達しようとしている」、サウジで収監される人権活動家など民間人も増加していると指摘、「このまま危険性が高まり、カラマール氏の正義への訴えが無視されれば、ムハンマド皇太子の支配の下で死者の数はさらに増えるだろう」と警告している。

◆人権状況の悪化懸念

 一方、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は19日、国連報告書の公表に合わせてカショギ氏の婚約者だったハティージェ・ジェンギズさんの手記を掲載した。

 先月、議会での公聴会に招かれワシントンを訪問したジェンギズさんは、「彼が愛したこの街で、その記憶が薄れていることに不安を覚えた」と記している。カショギ氏と交流があったという議員や国務省職員らと会う中で「ジャマルはイスタンブールだけでなく、ワシントンでも死んだと感じ始めた」と苦しい胸の内を明かした。

 また「議員とも話す機会があり、そのたびに、ジャマルの死がいかに重大で、記者としていかに愛され、尊敬されていたかが分かった」と述懐、米政府に対し、公正な裁きを求めるとともに、「サウジでは依然として殺人が続いている」とサウジでの人権状況の悪化に懸念を表明した。

(本田隆文)