交番襲撃犯逮捕に大きな役割果たした防犯カメラに一切言及せぬ朝日

◆物足りぬ各紙の主張

 地域の安全を守る要である日本の交番制度は、住民に安心を与える警察業務の成功例として海外でも知られ、取り入れる国も出てくるなど注目されてきた。

 そんな交番の警察官が襲われ重体に陥り、拳銃を強奪されたのだから、事は重大である。同様の事件は昨年も富山市、仙台市で相次ぎ、警察官は亡くなっている。

 地域と住民を恐怖と不安に陥れた今回の事件は日曜日の16日早朝に、大阪・吹田市の交番前で起きた。発生から約25時間後に、大阪府警が現場から約8㌔離れた隣接する箕面市の山中で33歳の容疑者を逮捕、拳銃も回収した。まずは重大事件容疑者のスピーディーな逮捕にこぎつけた関係者の尽力を多としたい。主要20カ国・地域(G20)首脳会議の開催を控えていたこともあり、地域が平静を取り戻したことにホッとする。

 各紙(18日付)がこの事件をテーマに一斉に主張を掲載したのは、問題が重要だからであるが、その割には妥当な主張とはいえ、似たりよったりで凡庸。物足りないのは否めない。

 重大な問題は「どんな経緯があるにせよ、警察官が拳銃を奪われた事実は重い」(読売)ことである。この点は、ほかに「衝撃は大きい」とした朝日、「拳銃を奪われることは警察官として最も避けなければならない事態」だとした産経、「一歩間違えば、一般市民に拳銃が向けられ、大惨事になる恐れもあった」と言う毎日、「由々しき事態」「拳銃を奪われることは警察組織の失態」と迫る日経、「拳銃が奪われることは決して看過できない」小紙と、各紙とも再発の防止にさらなる取り組みを求めたのは当然である。

◆効果なかった防護衣

 拳銃強奪を許した一因と言える、ほとんど効果を発揮しなかった耐刃防護衣(防刃ベスト)に疑問を感じる人は少なくないだろう。産経は「現在の耐刃防護服で強い攻撃性を持った者の襲撃を防ぎきれるのか」、読売が「凶刃をなぜ防げなかったのか」と疑問を投げ掛けた程度の言及しかないのは、突っ込み不足と言わなければなるまい。

 今回の事件が発生から約25時間で容疑者逮捕に行き着き、鳴りを潜めていた地域の人々などが休日明けの月曜日朝から平常の日常生活を取り戻すことができたのは幸いであった。これに大きく威力を発揮し貢献したのが官・民それぞれが設置した防犯カメラだった。当然、各紙論調が見出しに掲げる「安全・安心へ対策急げ」(朝日)、「再発の防止に万全を期せ」(産経)を実行していくのなら、防犯カメラの設置を充実させていくことは外せないはずである。

 だが、防犯カメラに言及した社論が読売と日経にしか見当たらないのも、不可解なことだ。

◆映像公開で早期解決

 読売は「大阪府警は、容疑者かどうか不明な段階で防犯カメラに映った画像を公開した。異例の対応が、速やかな特定につながった」ことに言及。続けて「山中に向かう容疑者の足取りも細かくつかめた。防犯カメラの映像解析など、追跡捜査が一定の効果を上げたと言えよう」と評価した。日経は「防犯カメラ映像の公開などが奏功して早期の逮捕につながった」とし、この「教訓を全国の警察で共有すべきだ」と結んだ。

 防犯カメラの映像公開が容疑者の特定につながり、当局の映像はもとより民間の協力・提供の映像をつないでいくことで容疑者を追跡でき、速やかな逮捕につながった。両紙はこのことに言及して評価したのだ。

 こうしたことにまったく触れないで、再発防止や安全への対策をうんぬんしても始まらない、無意味だと言うべきであろう。

 特に朝日には「防犯カメラ」の言葉が皆無だったことを強調しておきたい。これまでの防犯カメラについてネガティブな論調から予想できたことではあり、いくら社説で美辞麗句を並べても、底が割れているのである。

(堀本和博)