新時代をつくる5Gテクノロジーの可能性に焦点を当てた2誌の特集

◆5Gの覇権争う米中

 米商務省は15日、中国の通信機器メーカー・華為技術(ファーウェイ)とその関連企業68社を同省産業安全保障局(BIS)の「エンティティ・リスト」に加えた。これによりリストに載っている企業に対して米国から製品やサービスを輸出する場合にはBISの承認が必要となる。これは第三国を経由する場合にも適用され、事実上の禁輸措置となった。この背景には、「米中5G覇権戦争」があると言われる。

 5Gとは第5世代の略称。この第5世代移動通信システムが、従来の通信システムを極度に進化させ、われわれの生活やビジネス、さらには軍事面を一変させる可能性を有していることから各国で注目されている。その先端を担っているのが、中国であり、とりわけファーウェイの持つ技術が米国の軍事力すなわち安全保障を脅かすというトランプ米大統領は同社および関連企業との取引を禁止したわけである。果たして、5Gテクノロジーはどのような新しい世界を実現しようとしているのか。

 そうした5Gの持つ可能性に経済2誌が焦点を当てた。週刊東洋経済(25日号)の「5G革命 勃興する巨大市場をつかめ!」と週刊エコノミスト(28日号)の「5Gで上がる日本株」がそれである。前者は5Gテクノロジーをマクロ的に紹介し、それらの技術が自動車やゲーム、流通などの業界、さらにはローカルな地域での活用にまで影響することを論じているのに対し、エコノミストは具体的な企業名を挙げながら日本の取り組みを紹介している。

◆地方での活用を提案

 総務省が主催する「電波政策2020懇談会」の報告資料によれば、5Gテクノロジーの経済波及効果は国内で46兆8000億円に上る。内訳を見ると交通・移動・物流(21兆円)、工場・製造・オフィス(13・4兆円)、医療・健康・介護(5・5兆円)から農林水産、教育、観光、スポーツに及ぶ。その範囲を見れば従来の通信技術をはるかに超えて、まさに「第4次産業革命」ともいうべき様相を呈する気配なのである。

 とりわけ、東洋経済が今回の特集に「ローカル(地方)での活用」を挙げている点が興味深い。これまで5Gの話題といえば、自動車の無人走行・自動運転や高精度でリアルタイムでの映像を利用した遠隔医療、さらにはケーブルを使わずに無線で産業用ロボットを制御し、製造ラインのレイアウト変更などを可能にするスマート工場などが取り上げられてきた。それらに加えて同誌が掲げる「ローカル5G」では、遠隔監視システムを使って自動運転トラクターを走行や災害時での重機等の遠隔作業、地方の工場や自治体での5Gネットワーク化といった地方独自の活用を提案している。

◆他国に後れ取る日本

 ところで、日本の5Gに対する課題として、他国に比べて遅れているのではないか、という指摘がある。エコノミストは他国の動向について、「韓国で今年4月、世界初の5G携帯電話サービスが始まり、サムスン電子が5G対応のスマートフォンを発売させた」と韓国の積極的な展開を挙げる一方、日本に対しては「今年4月、5G周波数割り当てに際してキャリア大手4社の基地局開発計画を公表した。それによると、4社合計で1兆6624億円が投じられる計画だが、3Gや4G移行時、さらには中国、韓国などと比べても規模が小さすぎる」(齋藤和友・ミック経済研究所研究員)と論ずる。

 「5Gを制する者は、世界を制する」という言葉さえ生まれている昨今、日本の動きは鈍いのではないかというわけだ。確かに、自動運転や無人走行の技術開発やモデムチップなどの5G関連製品の開発などを見ると米国や韓国、台湾に後れを取っている感は否めない。ただ、5Gテクノロジーの底辺を支えている企業が日本に多数存在していることも事実。「5G時代に何が起きるかは予測不能だが、それでも巨大な需要が発生する未来は確実に待ち構えている」(東洋経済)のであるから、それらをしっかりと見据え着実に官民挙げて取り組んでいくことが肝心だ。

(湯朝 肇)