米中貿易摩擦の対立激化に長い覇権争いを見通した「日曜討論」など

◆制裁関税双方譲らず

 米国と中国の貿易摩擦解消を目指した閣僚級交渉が決裂し、19日のテレビの報道番組はもっぱら「米中貿易戦争」だった。今月、米政府は追加で2000億㌦分の中国製品の関税を10%から25%に引き上げ(10日)、対抗して中国は600億㌦相当の米国製品の関税を来月1日から最大で25%に引き上げると発表(13日)した。

 これを受けて米国は約3000億㌦分の中国製品に最大25%の関税を来月下旬に発動すると公表(同日)した。ついに習近平中国国家主席が「しつこく他の文明を変えようとするのは愚かだ」と演説(15日)すると、トランプ米大統領は大統領令で国家安全保障への脅威を理由に華為技術(ファーウェイ)など中国製品を米市場から締め出す措置を取った(同日)。立て続けの展開で、しかも影響が大きい。

 今後だが、NHK「日曜討論」でキヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之氏は「本当に見通せなくなっている。6月のG20で米中首脳会談が行われるまで結論が見えない。その時見えるかどうかも分からない」と当惑気味だ。

 みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミスト・高田創氏は、中長期的には10年単位の覇権争い、短期的にはトランプ政権の来年大統領選に向けた駆け引きとみて、「3000億㌦となると米国にそれなりの影響が出てくるし、中国には米国以上の減速の影響が出てくる」と指摘。現時点で米国の好況を背景にトランプ氏が攻勢に出たと見た。

 また、瀬口氏は「いずれいろんな格好で米中の摩擦が10年、20年、30年と続いていくと覚悟した方がいい」と語るなど、対立は長期化すると見通した。

◆“文明の衝突”の展開

 「自らの人種や文明が優れているとしてしつこく他の文明を変えようとすることは愚かな認識であり破滅を招くやり方だ」――TBS「サンデーモーニング」は、冒頭から15日の習氏演説から入った。「風をよむ」のコーナーでも、「13日、中国国営の中央テレビは激しさが増す米国との貿易交渉について5000年の歴史という言葉を改めて使い」、「歴史ある国家として一歩も引かない対決姿勢を鮮明にした」ことに注目。まるで“文明の衝突”だ。

 一方、米側のニューヨーク・タイムズ紙による「米中の対立は今後数十年続く経済戦争がさらに拡大する前の小競り合いにすぎない。…なぜなら両国は“覇権”をめぐって対立しているからだ」との報道を紹介。当事国同士も長期戦覚悟だが、数千年の歴史を持ち出した中国の方が苦しい状況を吐露したようにも見える。

 また、昨年10月、ペンス米副大統領が対中演説で「中国共産党は関税、通貨操作、強制的な技術移転、知的財産権の窃盗、産業補助金をいとも簡単に与えるなど自由かつ公平な貿易と矛盾する政策を行っている」と批判したことについて、国際ジャーナリストの春名幹男氏が「中国共産党の支配を崩そうとしているのではないか」と解説した。

 番組は、スパルタとアテネなど覇権国と新興国は争うという「トゥキディデスの罠」の歴史事例に触れたが、出演者で「明確に米国支持」と言い切ったのは、福山大学客員教授・田中秀征氏だった。同氏のように中国が世界貿易で公正なプレーヤーとなるように期待するのは当然だ。

◆釈明する華為CEO

 フジ「日曜報道THE PRIME(ザ・プライム)」は、「トランプ大統領が中国をさらに追い詰めるカードを切った」として、米市場からのファーウェイの排除から入り、早速、ファーウェイCEO・令正非氏を登場させていた。令氏は「私たちは米国と戦争しているわけではない」「スパイ行為をしてもメリットがない」などと釈明した。

 が、米国はファーウェイではなく中国と対決している。米中新冷戦とも言われているが、米国は中国が共産党独裁を放棄するまで締め付けられるだろうか。

(窪田伸雄)