LGBT差別禁じる「平等法案」米下院で可決

「信教自由の危機」保守派が猛反発

 性的少数者(LGBT)に対する差別を禁じる「平等法案」が17日、米下院を通過した。推進派はLGBTが医療行為を拒絶されたり、不当に解雇されないように保護するものだと主張するが、その一方で同性愛や同性婚に対して異論を認めないことで信教の自由などの基本的人権を脅す危険性が指摘される。保守派らは「不平等法案」だとして猛反発している。(ワシントン・山崎洋介)

同性婚に対し異論認めず

 性的指向や性自認に基づく差別を禁じた平等法案は、下院で236対173の賛成多数で可決された。民主党議員の全員に加え、8人の共和党議員が賛成に回った。

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2017年12月、米連邦最高裁前で、信仰上の理由から同性カップルのウエディングケーキ作りを拒否したケーキ職人を支持する活動を行うデモ参加者(山崎洋介撮影)

 法案の可決が告げられると、議場には拍手と歓声が響いた。1960年代にマーティン・ルーサー・キング牧師と共に公民権運動を闘った民主党のジョン・ルイス下院議員が「米国から差別をなくすことで誰もが自由になれるというメッセージを送る機会となった」と称(たた)えるなど、推進派は「歴史的」な瞬間として、この日を祝った。

 これに対し、信教の自由を脅かすとして強硬に反対の意を示したのが共和党議員や保守系、キリスト教系団体だ。

 共和党のビッキー・ハーツラー下院議員は、投票前の演説で「実際には差別を合法化する法案だ」と非難。「結婚や性別について長年尊重されてきた見解を持つ人々に対して政府が上からの差別を課すことになるだろう」と警告した。

 その強い警戒感の背景には、LGBTの権利拡大に伴い、キリスト教への信仰に基づき結婚を男女のものとする考えを否定する動きが強まっていることがある。

 近年、全米各地で花屋やカメラマン、ウェブデザイナー、結婚式会場のオーナーなどキリスト教の事業者が、同性カップルからの要望を断ったことを「差別」だと咎(とが)められ、訴えられている。

 中でも注目を集めたのが、コロラド州で同性婚カップルのためのウエディングケーキを断ったケーキ職人、ジャック・フィリップスさんのケースだ。同州の人権委員会によって、州法に違反するとして是正を命じられた。6年に及ぶ法廷闘争の末に昨年、連邦最高裁でフィリップさんの主張が認められたが、判決では他のケースでも信仰を理由に同性カップルへのサービス提供を拒否できるかどうかについては判断を下していない。

 また、性転換に対する宗教上の立場によって、医療機関が訴えられたり、親としての権利が奪われる事態も起きている。

 2017年にニュージャージー州やカリフォルニア州で、教義上の理由から性転換のための子宮摘出手術を断ったカトリックの医療機関が訴えられた。さらにその翌年2月、オハイオ州では、「性別違和」と診断された17歳の娘に対する性転換のためのホルモン治療を拒否したキリスト教徒の両親が、州控訴裁判所の判断によって親権を取り上げられる事態に至っている。

 もし平等法案が成立すれば、こうした問題を拡大させる恐れがある。キリスト教福音派系の有力団体「家庭調査協議会」のトニー・パーキンス会長は「親の権利、家族、そして米国内の宗教を信じる人たちに対する全面的な攻撃」だと厳しく批判。「米国民はこの『不平等』法案に力強く、明快に反対の声を上げ続けるべきだ」と呼び掛けた。

 さらに女性の権利擁護の立場から、フェミニスト系団体の一部からも「平等法案は女性や女児にとって紛れもない災難」(「女性解放戦線」のメディア担当、カラ・ダンスキー氏)などと法案に反対の声が上がる。生物学的な体の特徴ではなく自己認識によって性別を判断することで、女性トイレや更衣室でプライバシーが侵害されたり、生物学的には男性の選手が女子競技に出場し他の選手が不利になることが懸念されている。

 共和党が多数派を握る上院では採決される可能性は低い。仮に上院で可決されたとしても、トランプ大統領が拒否権を行使するのは確実視されている。それでも、下院通過によって成立に一歩近づいたことは間違いなく、反対派は危機感を強めている。