「血のコスト」を顧みず日米地位協定の不公平の是正を主張する左派紙
◆欧州で徴兵制が復活
「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」「戦争しないとどうしようもなくないですか」。北方四島の「ビザなし交流」の訪問団に顧問として参加した丸山穂高衆院議員の発言である。
これを聞いて、国際政治学者の三浦瑠麗(るり)氏の『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)を思い出した。3月に本紙と日経、読売が書評欄で紹介し、産経は4月27日付で「徴兵制が平和に向かう逆説」との見出しで、三浦氏のインタビューを載せていた。
それによれば、安定した民主国家が安易に戦争を起こしたり、市民が好戦的姿勢に走ったりするのは「実際に戦場に派遣されて戦う『血のコスト』の負担が、志願兵制下で特定の社会層が集まる軍に偏ってしまって、圧倒的多数の有権者や政治家は自ら血を流すことを想定していないから」という。丸山氏もそうか。
これに対して徴兵制は国民が自ら血を流すことを想定するので、安易に戦争は起こせない。徴兵制は一見、平和を脅かすように見えるが、実際はその逆だ。
欧州では戦後、英国を除いてほとんどの国が徴兵制を実施していたが、冷戦終焉(しゅうえん)後に廃止した。だが、ウクライナはロシアのクリミア併合を受け2014年に復活。15年にはリトアニア、昨年1月には中立国のスウェーデンが8年ぶりに復活させ、初めて女性も対象にした。
いずれもロシアの軍事脅威に備えるためだ。マクロン仏大統領も徴兵制の復活を唱えるが、それは相次ぐテロの脅威に備え、国民の団結を強めるためだ。事ほどさように軍事と平和は表裏一体だ。
◆戦時国際法への無知
ところが、わが国では丸山発言だ。丸山氏は東大卒。経済産業省に入省し係長などを務めた後、政治家を目指して松下政経塾に入り、2012年に28歳で衆院議員に当選したエリートだ。
伊藤俊幸氏(元海将=金沢工業大学、虎ノ門大学院教授)によれば、戦後エリートは憲法9条で「戦争放棄」がうたわれているとして、「戦争」に関する学びがない。大学では国際社会で常識とされる戦時国際法すら教育されない。そこから無知な発言が生まれる(産経17日付『正論』)。「戦争発言」だけでなく「9条信仰」もそうで、両者は無知の裏表と言ってよい。
左派紙がそんな無知をさらしている。沖縄本土復帰記念日の15日、毎日は「沖縄と日米地位協定 国は不平等の現実直視を」との社説を掲げ、「(欧州では)日本と同じ第二次大戦の枢軸国だった独伊も含め、駐留米軍に国内法を適用することを原則としていた」とし、「不平等」の是正を唱えている。沖縄タイムスは6日付社説で同様に「米軍に国内法適用せよ」とし、朝日も18日付社説で取り上げる。
◆日米安保こそ不平等
だが、本当の不平等はどこにあるのか。トランプ氏は大統領予備選で盛んにこう言っていた。「もし日本が攻撃されたら、われわれはすぐに第3次世界大戦を始めなきゃならない。いいかい? で、われわれが攻撃されても日本はわれわれを助けなくていい。公平じゃないだろ?」
日米安保条約は米国民だけに「血のコスト」を求める片務条約だ。これに対して独伊が加盟する北大西洋条約機構(NATO)は共同防衛をうたう。有事には独伊軍はNATO軍の指揮下に入る。米軍が駐留していても外国軍隊でなくNATO軍だ。それに基づく地位協定だ。独伊とベルギー、オランダは米軍の核兵器を自国内に配備し、有事にはそれを運用する「ニュークリア・シェアリング」(核兵器共有政策)で、核兵器でもスクラムを組む「血の同盟」だ。
不平等の是正を言うなら、まず日米安保条約を双務条約にすべきだ。それには9条を改正し、集団的自衛権行使を合憲とせねばならない。徴兵制を「違憲」とするような憲法では平和は守れない。「血のコスト」を顧みず、平等とは笑わせる。丸山発言と同罪だ。
(増 記代司)