豚コレラ、拡大阻止に万全を期せ


 豚コレラの感染が拡大している。昨年秋に岐阜県で発生し、今月に入って愛知、大阪など5府県の6養豚場で確認された。殺処分される豚は今の段階で1万6000頭に上る見通しだ。

 豚コレラは豚やイノシシが感染すると高熱を発するなどして死亡する家畜伝染病だが、人が感染することはない。感染した豚肉を食べても健康に影響はない。しかし、養豚農家にとって大きな脅威である。

農水省が岐阜に対策本部

 農林水産省は岐阜県に現地対策本部を設置した。これ以上、感染が拡大しないよう、万全を期してほしい。

 豚コレラは昨年9月に国内で26年ぶりに岐阜県の養豚場で発生。7例までが同県内だったが、今月には愛知県豊田市、同県田原市、岐阜県恵那市、長野県宮田村、滋賀県近江八幡市、大阪府東大阪市の養豚場で発生が確認された。豊田市の養豚場からは他の養豚場に繁殖用の子豚が出荷されていた。

 豚コレラはウイルスが付着した泥や感染豚のふんなどを豚がなめてうつることがあるが、拡大防止には感染ルートをできるだけ特定する必要がある。

 豊田市の養豚場と、以前に発生が確認されている岐阜県の養豚場に同じ飼料運搬トラックが出入りしていたことも分かっている。トラックに付着した泥などがウイルスを媒介した可能性もあるとして、農水省は検証を急いでいる。

 近年、耕作放棄地の増加やハンターの減少などが原因で増えている野生のイノシシが、ウイルスを媒介することも考えられる。イノシシは養豚場の豚と違って、その行動をコントロールできない。農水省はイノシシにワクチン入りのエサを投与する方向で検討しているが、どれだけの効果が期待できるか。イノシシが養豚場に近づけないように防護柵を設けるなどの対策をしっかりと講じるべきである。

 年月をかけて育ててきた豚を殺処分することほど、農家にとって残念で悔しいことはない。風評被害に遭う可能性もある。殺処分した場合、費用は全額を国と県が負担し、農家には国から補助金が支払われる。しかし、子豚が育つまで収入がなくなる一方、飼料代などは支払わなければならない。

 同じ家畜伝染病の「アフリカ豚コレラ」が中国大陸で急速に広がっているのも不気味だ。豚コレラとは別の病気だが、豚コレラよりさらに致死率が高いとされ、豚肉製品からも感染する恐れがある。

 旧暦の元日に当たる春節の休暇で、中国からの旅行客が増えることから、農水省は成田空港などの主要な空港に延べ270人の職員を派遣。肉製品をかぎ分ける「探知犬」も増やし、検疫体制を強化している。

 そういう中で、吉林省から関西国際空港に旅行客が持ち込もうとした豚肉ソーセージを検査したところ、アフリカ豚コレラの陽性反応が出た。

不十分だった初動対応

 豚コレラの感染が拡大した理由には、昨年9月の発生時の初動やそれ以降の対策が不十分だったことが考えられる。アフリカ豚コレラでは、水際での上陸阻止に万全を期してほしい。