米中首脳会談で「不公正許さぬ姿勢を貫け」と歯切れよかった産経社説

◆対立の構図変わらず

 報復関税の応酬を続けて「貿易戦争」を展開し、世界の注目を集めた米中首脳会談は、米国が対中追加関税を当面凍結する「一時休戦」でまとまった。世界1、2位の経済大国同士の争いは、両国間にとどまらず、世界経済に深刻な影響を与えるだけに、「一時休戦」は朗報ではある。

 とはいえ、このテーマで社説を掲載した3日付各紙の論調は総じて、安堵はしつつも、「懸案先送りの米中貿易協議は楽観できぬ」(日経見出し)、「対立の根は残ったままだ」(毎日見出し)などと慎重姿勢を崩していない。

 そんな中、「不公正許さぬ姿勢を貫け」との見出しで、最も端的で歯切れが良かったのが産経である。

 産経は「一時休戦」により、国際社会を一段の混乱に陥れかねない最悪の事態が回避されたことは「前向きに受け止めてよい」としながらも、同時に、「新冷戦」と評される対立の根本には何ら変化がないことも冷静に見るべきだと、毎日と同様の見方を示す。

 ただ、その一方で、同紙は問題解決に向け、「米国に求めたいのは、貿易赤字の解消という目先の成果にとらわれず、不公正な経済運営に基づく中国の覇権主義的な振る舞いを封じる姿勢を貫くことである」とさらに踏み込んだ主張を展開したからである。

 両国が今後、知的財産権侵害などについて協議を始めることになったのも、「中国は、外資への技術移転強要やサイバー攻撃、自国企業への不当な補助金などを改善していない」(産経)からで、同紙は「ここが曖昧では、本質的な対立の構図はなくなるまい」としたが、その通りである。

◆緊張の原因は中国に

 日経は、「中国による知的財産権の侵害や技術移転の強要といった懸案の解決をほぼ先送りしており、世界の不安を和らげたとは言い難い」と指摘し「一時休戦」の捉え方は産経と同様だが、解決に向けては「二大経済大国の首脳がそのリスクを直視し、緊張の緩和に動くのは当然だ」「だが、協議の行方は楽観できない。(中略)それでも両国は粘り強く妥協点を探るべきだ」との姿勢である。

 同紙はさらに、「貿易紛争で両国の関係がこれ以上に悪化すれば、中国の海洋進出や台湾問題を巡る緊張も高まりかねない」「米中対立のあおりでアジア太平洋協力会議(APEC)やG20は機能不全に陥り、国際統治に空白が生じつつある」として、「まずは米国が挑発的な姿勢を改めるべきだ」と強調する。

 これは緊張を高めているのは米国で、非は米国にあるという見方だが、どうか。特にアジアの海で軍事基地化を進め、緊張の原因をつくっているのは中国である。

 日経は中国に対しても、「悪質な知財侵害や技術移転の強要を放置するのは許されない」「報復一辺倒で対抗するのではなく、市場開放や外資の参入で協力できる余地を探ってほしい」と要望はしている。

 しかし、中国に求められる姿勢は、産経が主張するように、米国が「不公正を許さぬ姿勢を貫」いた上で、中国が先に示すべきものであろう。

◆米に注文付ける毎日

 もちろん、米国に対しては産経も、「残念なのは、トランプ政権が多国間協調に背を向けたままなことだ」「対中共闘を図るべき日欧などにも国際ルールを軽視し貿易紛争を仕掛ける。こうした独善が反発を招き、米国が孤立する現実をもっと厳しく認識すべきだ」と注文を付けるが、これまた妥当な指摘である。

 読売は通常2本枠を1本でまとめた大社説で、「不毛な貿易戦争に勝者は存在しないことを、両首脳はしっかりと肝に銘じなければならない」とした上で、新協議で取り上げる技術移転の強要などの問題は「経済大国に成長した中国が放置し続けてよい問題ではない。国際社会からの批判を直視し、自ら是正していくべきである」と、産経同様、中国の対応を先に求めた。当然であり、本紙も「中国には実効性ある知財保護制度の整備が求められる」とした。

 毎日は、「対立の根底には、国家の安全保障にも直結するハイテク分野を巡っての米中の覇権争いがある」としたのは妥当だが、「米国は制裁で脅して自国に都合のいい譲歩を引き出したいのだろう。(中略)『米国第一』を振りかざす保護主義はやめるべきだ」との米国への注文を先に出した。やはり、である。朝日、東京はこれまでに論評はなし。

(床井明男)