米中「新冷戦」時代の危険度を貿易と通貨の面からチェックする2誌
◆覇権を懸けた戦いに
米国と中国の貿易戦争が激化の様相を見せている。12月1日、ブエノスアイレスで行われた米中首脳会談によって、「中国が米中の貿易不均衡を是正するため『相当量』の輸入を進めることで合意した」ことから、米国による2000億ドル規模の中国製品への追加関税は見送られたものの、米国が提示した内容を中国が90日間に完全合意しなければ関税を10%から25%に引き上げるとしている。もっとも、今回の米中貿易戦争は、これまでの日米貿易摩擦といった経済的軋轢(あつれき)にとどまらない。すなわち米中の覇権を懸けた戦いが始まったことを意味する。
そうした中で経済誌が米中貿易戦争を取り上げた。一つは週刊ダイヤモンド(11月24日号)の「米中戦争 日系メーカー危険度ランキング」。もう一つが、週刊エコノミスト(11月27日号)の「ドル・原油・金『新冷戦』でこう変わる」。前者は見出しに「技術覇権、軍事覇権を懸けた二大国家の長期戦は決定的になった。…。これまで自由貿易を前提に、生産・開発・販売戦略を構築してきた日系メーカーは大きな戦略変更の必要性に迫られている」と綴(つづ)れば、後者には「基軸通貨ドルの動揺で、世界経済に地殻変動が起きている。先行きの鍵を握るのは原油と金の動きだ」と明言する。
◆人民元の国際化狙う
中でもエコノミストは、今年9月に上海黄金取引所に上場された中国人民銀行が発行する「パンダ金貨」について取り上げ、そこから中国の通貨覇権構築のための戦略を紹介している。すなわち、「パンダ金貨の上場には『三つの目的』がある。…。①中国金市場の国際化を加速し、②将来は現物に加え、先物などデリバティブの取引を開始することで、中国金融市場の改革開放、人民元の国際化、そして③広域経済圏『一帯一路』戦略に貢献すること―である」(田代秀敏・シグマ・キャピタル・チーフエコノミスト)という。
既に中国は世界でもトップクラスの金準備量を持つ国だが、金を背景に人民元の国際通貨構築を目指す。折しも、今年3月上海先物取引所では人民元建て原油先物が上場された。これについて田代氏は「原油先物がドル建てであることは、ドルの基軸通貨としての地位の重要な支柱である。人民元建て原油先物の上場は、米国の『通貨覇権』に対する挑戦状にほかならない」と指摘。パンダ金貨が人民元と自由に交換できることを考えれば、人民元建て原油先物は、事実上、金によって担保されることになる。もちろん、こうした背景には米国のイランへの経済制裁があり、イラン産原油の最大の買い手であり、貿易戦争で米国と対立している中国にとっては人民元の「通貨覇権」を加速させる一手となるというわけだ。
◆長期化する貿易戦争
一方、ダイヤモンドは米中貿易戦争が日本の企業、あるいは業種に与えるリスクについて言及する。ここでこの貿易戦争が短期で終わるのか、長期にわたるのかについて同誌は、「米国が突き進む保護主義。自由貿易を声高に叫ぶ中国だが、投資・輸出規制を駆使して中国が利するように動くという意味では『形を変えた保護主義』である」と断言し、「将来の飯の種となる技術覇権、国家の安全保障を支える軍事覇権を争う戦いなのだから米中関係はもはや修復不可能だろう」と長期化の見通しを立てる。
確かに10月14日、米国のシンクタンク・ハドソン研究所においてペンス副大統領の演説した内容を見れば、米国の本気度を見て取ることができる。すなわち、「中国共産党は、関税、割当、通貨操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗、外国人投資家にまるでキャンディーのように手渡される産業界の補助金など自由で公正な貿易とは相いれない政策を大量に使ってきました。…。最悪なことに、中国の安全保障機関が、最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒幕です。そして、中国共産党は盗んだ技術を使って大規模に民間技術を軍事技術に転用しています」と訴え、中国共産党の下で動く中国の覇権戦略に真っ向から対抗していく姿勢を打ち出している。
従って、日本企業は自由主義の下で経済活動を行おうとするのであれば、企業リスクを考える以上に、共産主義の本質、あるいは共産中国の思惑や野心を踏まえて企業戦略を打ち立てる必要がある。
(湯朝 肇)