原爆Tシャツ問題で韓国の無知とテレ朝の措置の双方を批判する新潮

◆新たな日韓の火種に

 韓国の世界的ポップスター「防弾少年団(BTS)」が過去に原爆をあしらったTシャツを着ていた問題について、週刊誌はそれを批判する一方で、番組出演を見送ったテレビ朝日の対応も批判している。

 週刊新潮(11月22日号)は「原爆被害国としてこのような侮辱に対し怒って当然」という「元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏」の「憤り」を紹介し、またBTSのメンバーが「過去にナチス親衛隊の記章をあしらった帽子をかぶった」として米ユダヤ系人権団体の「サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)」も批判したと伝えた。

 SWCと言えば、文芸春秋の雑誌「マルコポーロ」が掲載したホロコースト(ユダヤ人虐殺)を否定する記事に抗議し、同誌を自主廃刊させた団体だ。韓国側もさすがに過ちの深刻度が分かったのか、これにはすぐに謝罪を行った(その後、SWCの批判を批判する“恐れを知らない”韓国人も出てきてはいるが)。

 ところが、テレ朝の出演取消しについては、自らの原爆Tシャツは棚に上げて、韓国メディアは日本の対応を批判。日本側は原爆に抱く日本人のトラウマを理解していないと反発し、新たな日韓対立の火種となった。

 ただ新潮は「火に油を注ぐ結果となった」と批判の矛先をテレ朝の対応の方により向けているように見える。

 「ネット右翼からの電凸(でんとつ)(電話での苛烈な抗議行動)やその可能性に抗しきれなかったのではないか。あと、11年に『韓流への阿(おもね)り』を非難されて抗議デモがあったフジテレビの二の舞を避けたかったはず。(略)長寿番組であるMステのブランドを下げたとは言えるね」とは「キー局の幹部」の言葉だ。

 韓国メディアは直前にあった韓国大法院(最高裁)の「徴用工」賠償判決に反発して、日本が世界的な人気タレントの出演を断ったと解釈し、「全世界に日本の『戦犯行為』を知らせた」といささか飛躍した見当はずれの論理で日本攻撃を続けているが、テレ朝の措置が「火に油を注ぐ」と言われる理由だ。

 もっとも同誌は韓国の原爆に対する無知を批判しつつ、テレ朝の措置も批判することで、記事の焦点をボカしてしまった。

◆無頓着の背景に教育

 それに対して、週刊文春(11月22日号)の「防弾少年団は本当に反日か」の記事は冷静に事態を見ている。「件(くだん)の原爆Tシャツはファンが贈ったものだったという。ファンの一人が語る。『(中略)日本を貶める意図はなかったはず。贈ったファンは迷惑をかけたと騒動を詫び、SNSを閉じました』」と向こうも“反省”しているというのだ。ただし、この反省は日本人を傷つけたとしてのそれではない。あくまでもBTSに対しての詫(わ)びである。

 韓国人は時に無自覚に日本を貶(おとし)める言動を取る。原爆に関して言えば、日本に下された「天罰」だと思っている韓国人は多い。原爆投下によって日本は降伏し、その結果、韓国は植民地から解放された。だから留飲を下げる思いの方が強いのだ。

 韓国では原爆が人類が認識を共有すべき残酷な大量殺戮(さつりく)兵器であることを教えていない。そのため、20万人という無辜(むこ)の民がいっぺんに犠牲になったことの恐ろしさ悲惨さに思いが至らない。犠牲者の中には多くの韓国人も含まれ、朝鮮王族までがいたことも知らないのである。

 韓国の若者がTシャツにきのこ雲をデザインするなど、原爆に無頓着なのは、無知のほかに、そうした心理や教育の背景がある。このことこそ記事でもっと強調すべきだろう。だから「無頓着な行動であって、BTSは別に反日ではない」という文春の記事にはその分、物足りなさがある。

◆韓国人共通の歴史観

 週刊ポスト(11月23日号)は「幼稚な韓国とどう付き合えというのか?」をトップ記事にしている。「文政権が続く2022年までは韓国と真っ当な話をするのは無理だと割り切り」付き合うことを「元外交官で作家の佐藤優氏」がコメントしているが、朴槿恵前大統領のように、今や保守でも対日強硬姿勢が強いことを考えると、甘い見通しと言わざるを得ない。「積弊清算」という歴史見直し論争は左派が仕掛けたものとはいえ、「恥辱の歴史をなかったことにしたい」という歴史観は韓国人全般に共通しているのだから。

(岩崎 哲)