「ヘイト」のレッテル貼りと言葉狩りで言論抑圧する「エセ・リベラル」紙

◆保守論調に過剰反応

 「私はあなたが言うことには賛成しないが、私はあなたがそれを言う権利を、死んでも守るだろう」

 フランスの哲学者ヴォルテールの言葉として知られるが、最近のリベラル派の報道を見ると、すっかり忘れ去られていると酒井信彦・元東大教授が嘆じておられる(産経7日付「新聞に喝!」)。言わずもがな、衆院議員の杉田水脈氏のLGBT(性的少数者)をめぐる論文やそれを掲載した「新潮45」の休刊問題についてだ。

 ヘイト(差別)と認定する基準は曖昧であるのに、朝日や毎日は意見の異なる相手に、簡単に「ヘイト」のレッテルを貼って断罪する。それで酒井氏は「リベラルからの言論抑圧が強化されないか、強く危惧する」という。確かにそんな風潮が広がっている。

 その一つは、リベラル紙がネット上の保守論調に過剰にまで反応し、「ヘイト」とか「ネット右翼」といったレッテル貼りをする傾向があることだ。例えば、シリアで武装勢力に捕らわれていたフリージャーナリストの安田純平氏に対し、朝日は「自己責任論」に基づく批判がネット上などに出ているとして「『自己責任論』また噴出」(27日付社会面)と報じている。

 だが、ネット上の批判をもって「噴出」とするのは過剰反応だ。読売が新聞週間前に行った世論調査によると、ニュースを知る手段として信頼するメディアは新聞がトップで、「NHKテレビ」「民放テレビ」がこれに続き、ネット情報の信頼度は新聞やテレビの半分程度だった(14日付)。このように信頼度が低いにもかかわらず、朝日は保守批判を行う時にはやたらとネット情報を使う。

◆「ネット右翼」は1.7%

 では、「ネット右翼」とはいかなるものなのか、朝日はこの検証を十分に行わずに安易に使ってきた。これについて朝日新聞デジタル7日付に東北大の永吉希久子准教授らが行った「ネット右翼」を検証する興味深い記事が載った。

 同准教授らのグループが昨年12月にネット調査会社を通じて東京都市圏に住む約8万人にアンケートをしたところ、ネット上で排外的な言動を行う人のうち「政治家の靖国神社参拝に賛成」「憲法9条改正に賛成」など政治的な保守思想を持つ人が全体の1・7%を占めた一方、保守思想を全く持たない層が3%いたとしている。永吉准教授は前者を「ネット右翼」、後者を「オンライン排外主義者」と分類している。

 この調査が正しければ、「ネット右翼」はわずか1・7%にすぎない(記事は「占めた」と表現しているが)。「ネット右翼」と「オンライン排外主義者」を合わせても5%以下だ。

 また両者は「経営者や自営業者が多い傾向が見られ、必ずしも低所得層や雇用不安定層には限らないことも浮かび上がった。婚姻状態や相談相手の有無による影響もなかった」としている。従来の「ネット右翼」観では不満分子という見立てだったが、違っていた。いずれにしても朝日は少数意見を大げさに取り上げ保守批判に利用した。

◆麻生発言を舌禍扱い》

 もう一つは、相変わらずの言葉狩りだ。例えば、麻生太郎財務相の次の発言だ。「おれは78歳で病院の世話になったことはほとんどない。『自分で飲み倒して、運動も全然しない人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしい、やってられん』と言った先輩がいた。いいこと言うなと思って聞いていた」(23日、閣議後の記者会見)

 これを毎日は「麻生氏、また… 不摂生患者医療費『あほらしい』」と問題発言として報じ(24日付)、朝日は「麻生氏また舌禍」(26日付「ニュースQ3」)とこちらは舌禍扱いだった。だが、朝日によれば、この発言の後に記者から、麻生氏も同じ考えかと重ねて問われると、「生まれつきもあるので、一概に言うのは簡単な話ではない」と答えたという。

 ならば、なぜ問題発言で舌禍なのか、理解に苦しむ。むしろ世間の素朴な疑問を代弁した麻生流の発言で、「麻生氏また」ではあるが、取り立てて騒ぎ立てることもない。

 酒井氏はヴォルテールの言葉を自ら否定するリベラルを「エセ・リベラル」と呼んでいる。その汚名をそそぎたいなら、「言論抑圧」まがいの報道姿勢を改めるべきだ。

(増 記代司)