火の出る舌鋒で日中の「ムードに流された関係改善」を危ぶんだ産経
◆朝日さえ醒めた見方
「競争から協調へ、日中関係を新しい時代へと押し上げていきたい」という安倍晋三首相の呼び掛けに、中国の習近平国家主席は「中日関係は曲折を経験したが、双方の努力で正しい軌道に戻り、前向きな勢いを見せている」と応じた。
日中両国の演出された関係改善の成果の評価をめぐる先週の日中首脳会談についての新聞論調(朝日28日付、他はいずれも27日付)は、朝日の「(2012年の)尖閣国有化などを経て悪化した関係がここまで改善したことを評価したい」とする肯定的大局観から、最も否定的な産経の「日本が目指すべき対中外交とは程遠い。むしろ誤ったメッセージを国際社会に与えた」まで分かれた。他紙はこの幅の間で、いろいろな留保を付けて評価を示したのである。
とはいえ朝日ですら政府間で交わされた12本の署名文書などについて「踏み込んだ内容は乏しいが、双方が友好の演出で足並みをそろえたことに意義があった」とする程度。「この首脳会談は、真の互恵の関係づくりへ向けて遅まきながら出発点に立ったに過ぎない」「外的な環境の変化次第で、日中関係が容易に浮沈する現実は変わっていない」として過剰な期待を抑えた醒めた見方を示している。
◆高まる「中国脅威論」
「会談は、それなりの成果が認められる」とする毎日も「(固く見える日中の握手について)まだ相手の感触を確かめているのが本当のところではないか」と懐疑的なのは、中国の軍事的な強硬姿勢への懸念があるからだろう。40年前の日中平和友好条約がうたった「反覇権条項」を持ち出し「中国が南シナ海で進める軍事拠点化が、地域の不安定化をもたらしているのは事実だ。覇権的な活動とみられても仕方ないだろう」と批判。それでも両首脳が「互いに長期的な視野で日中を展望できるようになった。本気で握手し日中を前進させるときだ」と社説を結び、期待を寄せているのである。
「『最悪』と評された関係の改善を、首脳レベルで確認した意義は大きい」と認めた読売も、毎日同様に反覇権条項への言及では「今や中国が覇権とみなされても仕方がない。/中国が豊かになれば、民主化が進む、という日本などの期待が裏切られたのは残念」だと批判した。その上で習政権には「『強国路線』が各国を警戒させ、中国脅威論の高まりを招いたことを認識すべきだ」と改善を迫った。また日本に「米国や豪州などと『インド太平洋戦略』を進め、中国の一方的な海洋進出に対抗していく」ことの重要性を説いたが、全く同感である。
日経は両国の関係改善が「正常な軌道に乗りつつある。その流れをより着実なものにしたい」と願望を込める一方で、相手国側が債務過剰に陥るなど問題点が指摘される中国の「一帯一路」広域経済圏構想には「国際基準への合致を前提に細心の注意を払って進めるべき」と注文を付けた。また沖縄県の尖閣諸島周辺の領海に中国公船が侵入する事態が続くことに「改善の機運が一過性に終わりかねない危うさ」があることなども指摘した。
◆覇権阻む意思見えず
これら諸問題を総ざらえした産経は、米中が覇権を争い地殻変動を起こしている国際社会を前に「日本はどう向き合うか。安倍晋三首相の中国公式訪問で問われたのは、この一点に尽きる」とした上で、首相に「『覇権』阻む意思が見え」ないと冒頭の評価を突き付けた。欧米社会と民主主義や市場経済などの価値観を共有する日本に、軍事などで「強国路線を突き進む中国に手を貸す選択肢はあり得ない」と懸念。関係改善の大前提として「中国に強権政治を根本的に改めるよう厳しく迫る」ことを求めたのである。
さらに日本が中国には煮え湯を飲まされ続けてきた例の一つに「天安門事件で国際的に孤立した中国にいち早く手を差し伸べ、天皇陛下の訪中や経済協力の再開に踏み切った」が、日中友好の深化への期待は裏切られた。この「教訓を生かせず二の舞いを演ずるのか」と迫った主張は「ムードに流された関係改善は、砂上の楼閣に等しい」と結ぶ。揺るぎのない大局観と火の出るような舌鋒(ぜっぽう)が心に強く響く。
小紙はテーマを「一帯一路」問題だけにしぼり、その安易な「協力は、将来に安全保障が絡んだ禍根を残す懸念がある」ことを指摘したのである。
(堀本和博)