イエメン内戦で有志連合への米軍の支援停止求めるワシントン・ポスト紙
◆40人の子供が犠牲に
内戦が続くイエメン西部でバスが爆撃され、乗っていた40人の子供が死亡したニュースは、世界中に衝撃を呼んだ。イスラム武装組織「フーシ派」を狙った爆撃とみられるものの、多発する民間人を巻き込んだ軍事攻撃に非難の声も上がっている。
米紙ワシントン・ポストは、この攻撃を受けて「無意味で勝者のいない戦争への支援停止を」と内戦への米軍の関与停止を掲げた。攻撃を行ったのはサウジアラビア主導の有志連合軍。アラブ首長国連邦(UAE)も参加し、米軍が作戦や兵站(へいたん)など後方支援を行っている。攻撃後、使用された爆弾は米国が供給したもので、攻撃したサウジ軍機に米軍機が空中給油を行い支援していたことが明らかになると、米国内でも「米国は戦争犯罪とみられる攻撃の共犯」(ポスト紙)などと批判が噴出した。
国際赤十字によるとこの攻撃で死亡したのは少なくとも51人、米紙ニューヨーク・タイムズによると、そのうちの40人は6歳から16歳の少年だったという。サウジ政府は、「正当な軍事目標」だったと攻撃を正当化したというが、空爆で女性、子供を含む民間人の犠牲者を伴うケースはこれまでにも頻発している。フーシ派が民間人を「人間の盾」にしているという報道もあり、標的の選択が困難な場合もあるだろうが、民間人の犠牲者が増えれば、作戦の見直しや関与中止を求める主張が高まるのは当然だろう。
ポスト紙によると、米軍高官が、多数の民間人が死亡したことに関する記者の質問にはあまり興味を示さず「それがどうした」と言わんばかりの反応だったという。
民主党のリュー下院議員は国防総省への書簡で、「戦争犯罪となる可能性のある攻撃への支援」となり得ると、武器の供与、空爆支援など有志連合への支援を非難している。
◆殲滅を訴えるUAE
サウジ主導の有志連合がイエメン内戦へ介入を始めたのは2015年春。米軍からの武器供与を受けたサウジの「参戦」で、内戦は早期に終結するとの楽観論もあったが、介入から3年余り、内戦は「泥沼」(ポスト紙)状態だ。国連は「世界最大の人道危機」と呼び、死者数は数万人との見方もある。
国連の仲介で9月6日、ジュネーブでフーシ派とイエメン暫定政権との間で和平プロセスについて話し合うことが決まっている。ポスト紙によると、国連筋は、フーシ派は和平への合意に前向きだが、サウジとUAEは反発している。交渉が、停戦、内戦の鎮静化につながるかどうかは不透明だ。
その一方で、UAEは、イスラム過激派への徹底した軍事攻撃による殲滅(せんめつ)を訴える。UAEのニュースサイト「ザ・ナショナル」によると、UAEのガルガシュ国防相は、イエメン東部を支配地域とするアルカイダ系組織「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)攻撃が奏功し、勢力が弱まっていると軍事作戦の成果を誇示、フーシ派への攻撃の継続の必要性を訴えた。
AQAPの台頭は、2014年にフーシ派による内戦で力の空白がイエメン国内に生まれたことが一因。ザ・ナショナルは、「フーシ派との衝突を解決することが、イエメンとその他の地域での長期的なテロ抑制への鍵だ」と軍事攻撃によるフーシ派の殲滅こそが、イエメン内戦解決への早道だと訴える。
◆和平交渉への期待も
フーシ派は、イエメンへの大部分の人道支援の経由地である西部ホデイダ港を支配している。フーシ派は、ホデイダ港の引き渡しに応じる構えを見せており、内戦に伴う食糧不足に苦しむ民間人支援へ、9月6日の和平交渉への期待が高まっている。
内戦での民間人被害はシリアでも深刻だ。シリア政府軍、ロシア軍、米軍による空爆での民間人の犠牲が頻繁に伝えられる。近年、武器の精度は格段に上がってきてはいるものの、民間人と敵対勢力が入り交じる内戦やテロ対策には、二次被害が付きまとう。
ポスト紙は、米軍の介入の停止を求めるが、それではイランの支援を受けるフーシ派を勢いづかせる。民間人犠牲者を削減するための配慮は必要だが、一方的な支援中断は、中東地域の不安定化を招くだけだ。
(本田隆文)