日中条約40年、政府のこれまでの対中政策の誤りを指摘した読売・産経

◆改善傾向の両国関係

 1978年の日中平和友好条約締結から、この12日で40年の節目を迎えた。安倍晋三首相と中国の李克強首相は、この日に合わせて祝電を交換。その中で安倍首相が「(両国が)協力を深め、国際社会が直面する諸課題の解決に貢献し、期待に応えていきたい」と年内の訪中で有益な意見交換に期待を表明し、李首相は「意見の相違を適切にコントロールし、中日関係の長期的で健全、安定した発展を推進していく」ことを記した。

 日中関係は今年5月に、李氏が中国の首相として7年ぶりに来日。安倍首相もこの秋などに訪中する予定で、中国の習近平国家主席は、来年6月に大阪開催の主要20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせての来日が取り沙汰されている。両国は節目の年を迎え、ようやく首脳同士の往来が始まることから改善傾向にあるとされ、友好ムードが醸成されている。

 19日までに社説を掲載しなかった朝日を除き、日中条約40年の節目をテーマとした各紙社説の見出しは次の通りである産経(覇権主義の現実見据えよ=14日付)、小紙(中国は条約の精神に立ち返れ=12日付)、読売(真の「互恵」関係を築きたい=12日付)、日経(他国に左右されない安定した日中関係に=10日付)、毎日(発展を後押しするために=12日付)。

◆覇権主義とどう対峙

 見出しが示すように産経と小紙は日中条約において、そもそも中国側から持ち出して条文にうたった反覇権条項(第2条)などに中国が反していることを見逃すべきではないと追及した。産経は「昨今の中国の振る舞いはこの精神(第1条の紛争解決で武力などに訴えないことと、第2条)と程遠い。まずはこの現実を直視すべき」ことを政府に求めた。そして「経済的利益に吸い寄せられるように前のめりに動くのは危うい。中国の覇権主義にどう対峙(たいじ)するのか。必要なのは、この視座での対中戦略の構築である」ことを強調し、政府の姿勢を危惧した。

 読売は中国が近年、軍拡路線に走っていることを危惧。「日本は、鄧小平による『改革・開放』政策を後押しし、巨額の政府開発援助(ODA)を供与してきた。中国の平和的発展につながらなかったのは残念だ」とおとなしい表現ながら政府のこれまでの対中政策の見誤りを指摘した。条約についても「条約は紛争の『平和的手段による解決』を明記している。国際ルールを無視し、東・南シナ海などで『力による現状変更』を試みる中国の姿勢は、その趣旨に明らかに反する。政府は粘り強く自制を働きかけるべきだ」「中国と向き合うには、条約でうたった『平和』『友好』を唱えるだけでは限界がある」ことを強調した。産経、読売ともに、極めて妥当な正論を示したのである。

 小紙も中国の東・南シナ海などでの強引な権益拡大に言及した上で「日中平和友好条約では『主権及び領土保全の相互尊重』をうたい、アジア太平洋地域において覇権を求めるべきではないとしている」ことを指摘。中国に「アジアの大国として条約の精神に立ち返り、日本と共に地域の安定と発展に貢献すべき」ことを求めたが、前2紙に比べて表現が包括的で甘く、小紙らしい主張が弱かったのは残念。

◆経済利益のみの日経

 これに対して、日中条約の基本とその精神にはまったく触れないまま、条約40年の節目を論じたのが日経と毎日である。日経は経済にしか目がいかないようである。日中関係が「正常な軌道に戻った」との李首相の来日時発言や王毅国務委員兼外相とのシンガポールでの日中外相会談など、中国側の「積極的な姿勢を歓迎したい」と日経は友好ムードを前面に出す。「アジアの経済大国である日中両国が安定的関係を築くことは、アジアと世界の利益につながる」とか「双方の国民感情を和らげるには、両国トップの相互訪問の実現が極めて重要」だと強調する。これらの主張が産経が言うところの「経済的利益に吸い寄せられるように前のめりに動く」ことにならなければいいのだが。

 毎日は条約の中身には触れないが、この条約づくりに議員外交が重要な役割を果たした、として今後の両国関係の発展にも「政府を補完する重層的な外交が必要だ」と強調するが、条約と向かい合わないで一体何のことやら。

(堀本和博)