東京医大の不正入試で女性医師が働きやすい環境整備を強調する読売など

◆受験生への背信行為

 どなたか医学界に多大な業績を残した東京医科大学(東京・新宿区)出身者もおられようが、こちらは寡聞にして知らない。知っているのは『甲賀忍法帖』で忍法ブームに火をつけたとされる作家の山田風太郎(2001年没)がこの大学出身だということ。小説は読んでいないが、ただ一つだけ読んだのが『あと千回の晩飯』(角川文庫)である。ユニークな死生観や老いを語った独創的なエッセーで、かなり早い時期から高齢化社会の到来を覚めた感覚で捉えていたのが印象深かったから、よく覚えている。

 話ははなから横道にそれたが、私大助成をめぐり文部科学省の前局長の息子が不正に合格していたことが発端となった東京医科大の不正入試問題は、大学の内部調査で女子や3浪以上の多浪の男子受験生が不利になるよう得点操作が行われていたことも確認されるなど、大規模な入試不正へと広がってきた。調査は弁護士3人で構成する調査委員会(中井憲治委員長)が行い、調査報告書を文科省に提出した後、7日に公表し入試不正を認めたのだ。

 女子受験者に不利な得点操作などの不正問題で8日までに社論を掲げたのは掲載順に朝日(3日)、読売(4日)、毎日(8日)、産経(同)の4紙である。朝日は「女性の社会進出の道を、こともあろうに教育に携わる者が、不正な手段を使って閉ざす。事実であれば、許しがたい行いだ」。読売も「公正・公平が大原則の大学入試で、女性という理由だけで内密に減点する。事実であるなら、受験生への背信行為だというほかない」と、いずれも「事実ならば」を前提に厳しく非難したのは当然である。

◆文科省が徹底指導を

 大学側が入試不正を事実と認めてからの社論では、毎日が「入試の名のもとに、これほど大規模な不正がまかり通ってきたことにあきれる」。産経も「(得点操作が)長年にわたり、『伝統』のように行われていたというからあきれる」「これが命をあずかる医師を養成する大学なのか、あぜんとする」などと嘆く。公正・公平が前提の大学入試が、誰よりも前提を守るべき責任者によって、いとも簡単に破られたことに、論者も言葉を失ったのであろう。

 問題はここからである。「弁護士の調査はこれで終了するというが全容は解明されていない」(毎日)。さらに解明を具体的に進め、遅くとも2010年ごろから行われてきたとみられる女子受験生の点数操作で「いったい何人が不当に不合格にされたのか。どのように謝罪し、救済の措置をとるのか。大学は早急に考えを示す」(朝日)ことが大学の最低限の責任であることは言うまでもない。

 なぜ、理事長らの暴走が許されてきたのか。毎日は「理事16人のうち13人が同大出身者か関係者で、物言えぬ体質があっ」て機能不全に陥っていたことを指摘。裏口入学に絡んで 前理事長らに金銭謝礼の疑惑も出ていることに言及する産経も「現時点では徹底究明に程遠い。継続調査を大学側に任せておいていいのか」と疑問を投げ掛けた。同大はこれまでもOB師弟などの裏口入学疑惑が取り沙汰されきたことに触れ、それと「同根」ともみられる今回の「不正の土壌を根絶しない限り、また繰り返されるだろう」「不正を野放しにした学内体制こそ問題」だと説く。同大による自浄が期待できない以上、文科省に踏み込んだ指導で同大を徹底的に正すことを求めたのも仕方あるまい。

◆大学改革を迫る各紙

 また女子を入試段階で意図的に排除しようとした背景に、女性は医師になっても出産・育児などで辞める人が多く医師不足になる危機感があったとされることについては、4紙とも「教育機関としての使命を放棄した、あまりに身勝手な理屈」「理由にならない」などと批判。

 「ならば働きやすいようにするのが当然だ」(産経)、「女性医師が働きやすい環境を整えるのが、大学の務めだろう」(読売)、「その解決に向け先頭に立ち、意識改革を図るのが、医療、研究、教育を担う医大の大きな役割ではないか」(朝日)と説く。

 女性が活躍する社会の実現はアベノミクスと並ぶ安倍政権の大きな柱だけに、読売、産経も結構強い調子で大学改革を迫っているのである。

(堀本和博)