オウム松本死刑囚らの刑執行に難癖をつけ死刑制度批判を展開する朝日
◆史上最悪の組織犯罪
かつて鳩山邦夫法相が宮崎勤死刑囚(東京・埼玉連続幼女殺害犯)の刑執行を命じたところ、朝日から「死に神」と呼ばれた(2008年6月18日付夕刊「素粒子」)。上川陽子法相はどうだろうか。
上川陽子法相はオウム真理教の元代表、松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚ら7人の死刑執行を命じた。さすがに「死に神」呼ばわりするメディアはないが、朝日7日付「時時刻刻」は「7人、異例の同時執行」「戦後最大の規模」「海外から批判も」と死刑制度懐疑論を全面に押し出している。
確かに7人の同時執行は異例だが、それを言うなら事件の方だ。教団は地下鉄サリン事件など13事件を引き起こし死者29人、負傷者は6000人以上。189人が起訴され、死刑が13人、無期懲役が5人。こんな凶悪な組織犯罪は過去に例を見ない。
上川法相は「慎重にも慎重な検討を重ねて執行を命令した」という。来春は天皇陛下の退位と皇太子殿下の新天皇即位に伴う行事が予定されている。それで「平成に起きた最大の事件は平成のうちに区切りをつける」(政府関係者=毎日7日付)国家の決断だ。
それでも朝日は死刑執行が気に入らないらしい。7日付社説は、13人の死刑囚の中から7人の執行を決めた理由や松本死刑囚の精神状態について上川法相が答えを控えたことを「従来どおりの秘密主義」と難癖をつけ、「多くの国が死刑廃止に向かうなか、日本は世論の支持を理由に制度を存置している」と死刑制度批判へと論を飛躍させている。
それほど松本死刑囚らの刑執行を拒みたいのなら、はっきりそう言えばいいではないか。それを制度論へとすり替えている。これに対して産経7日付主張は「わが国が、死刑制度を有する法治国家である以上、確定死刑囚の刑を執行するのは当然の責務である。法の下の平等を守り、社会の秩序を維持するためにも、これをためらうべきではない」と正論を吐いている。
◆情緒的テーマ語らす
朝日社説のタイトルは「根源の疑問解けぬまま」だった。朝日の言う「根源の疑問」とは「教団が若者を吸い寄せ、拡大を続けた理由を解き明かすことだ」という。関心はもっぱらそこにあるようで、オピニオン面の「耕論」では作家の中村文則氏、弁護士でオウム真理教犯罪被害者支援機構副理事長の中村裕二氏、映像作家の森達也氏に「オウムとは…そしていま」との情緒的なテーマを語らせている。
朝日の記者がインタビューしているだけに、「(松本死刑囚を)精神の殻に閉じこもらせたまま死刑にしてしまったのは、本当に驚きで残念」(作家の中村氏)、「世界が死刑廃止の方向に向かっている中、一日に7人もの死刑を執行したことは国際社会の批判を浴びる」(弁護士の中村氏)といった具合に、結論は死刑制度批判だ。
司法改革ではあれほど「自白」を信用しなかった朝日が松本死刑囚については白状するまで刑を執行するなと言っているのだから、ダブルスタンダード(二重基準)も甚だしい。黙秘すれば刑から逃れられるとすれば、それこそ無法国家ではないか。
◆テロ対策には触れず
もとより「根源の疑問」を問うのは勝手だが、それだけでは空想的平和主義の類いだ。テロ対策や治安はどうするのか。これを朝日は問わない。まるで意図的にテロ対策を欠落させているかのようだ。
朝日と対照的なのが読売7日付の「論点スペシャル」だ。登場するのは元検事総長の但木敬一氏、元警視総監の池田克彦氏、大阪大名誉教授(宗教学)の川村邦光氏。こちらの方がはるかに現実的だ。
但木氏は「テロを起こしかねない団体活動を監視するために創設された『オウム新法』はこれまで教団しか対象としておらず、別の団体が無差別テロを起こそうとしても有効に機能するとは限らない」と指摘している。
一方、池田氏は「宗教団体という看板に尻込みし、教団に対するインテリジェンス(情報)が欠け、危機感を持つことができなかった」と振り返り、「2年後に東京五輪・パラリンピックを控え、第二のオウムを生まないよう、インテリジェンスの強化は不可欠だ」と提言している。
死刑制度批判にうつつを抜かす朝日は国家を「死に神」呼ばわりしているも同然だ。
(増 記代司)