米国の対北朝鮮交渉で最強硬論の産経に留意しつつ、交渉を見守りたい
◆成果皆無の高官協議
何しろ過去の非核化協議でも、相手をだまし続けてきた名うてのワル、北朝鮮相手の協議であるから、誰もひと筋縄でいくなどとは思っていない。としても、ポンペオ米国務長官がこの6、7両日に訪問した北朝鮮で、金英哲・朝鮮労働党副委員長との間で行った米朝高官協議は、完全非核化の具体化措置として目に見える成果がなさ過ぎたと言うべきであろう。
ポンペオ氏は非核化の検証などを扱う米朝の作業グループの設置で合意があったなど「ほぼ全ての主要分野で進展があった」ことを強調したが、米国は北朝鮮から非核化に向けた工程表はおろか、その第一歩として求めた核施設や兵器・物資などの申告の言質すら得られなかった。非核化に向けた第一歩すら踏み出せていないのである。
その一方で、北朝鮮外務省報道官は国営メディアで、ポンペオ氏の完全な非核化の求めを「強盗さながらの非核化要求だけを持ち出した米国の一方的かつ高圧的な態度は遺憾極まりない」とする非難談話を発表して揺さぶりを掛ける始末。それも、これがトランプ大統領の逆鱗(げきりん)に触れるのを恐れてか、談話はトランプ氏への「信頼は維持している」と付け加えるのも忘れない、という抜かりなさである。
◆「功を焦るな」と朝日
こうした北朝鮮に各紙の論調(社説、主張)が厳しいのは当然である。
最も北朝鮮に理解を示しそうな朝日(10日付)ですら「非核化と安定的な平和を実現するには綿密な工程表が欠かせない」とした上で「トランプ政権は安易な妥協をしてはならない。(6月の)共同声明で非核化を誓った金正恩氏の言い逃れを許さず、行動計画の合意を迫るべきだ」とトランプ氏にエールを送る。さらに、秋の中間選挙などを前に「短期的な思惑で功を焦れば、長い時間軸がとれる独裁国の思うつぼになりかねない」ともいさめる。日本と韓国には「米朝対話の継続を支えつつ、トランプ政権が健全な朝鮮半島政策を保つよう注視し、助言」し、「日米韓はこれまで以上の結束が求められている」と結んでいる。ほぼ妥当な主張である。
日経(10日付)は、韓国に対北融和の動きがあることを懸念し「核問題の行方を左右する重大な局面だけに、中核となる日米韓の足並みの乱れは北朝鮮に付け入る隙を与える」と警告。「米朝首脳会談の共同声明が着実に実行に移されるよう日米韓は一枚岩でのぞむ」よう非核化への結束を強調した。また北朝鮮内で最近、核施設の改修作業や隠蔽工作の動きが指摘されることなどを挙げ、日米韓が「対北朝鮮制裁を核放棄まで維持する立場を申し合わせたのは当然」とした上で、北朝鮮が提起している「朝鮮戦争の終結宣言は、地域の安全保障に直結するだけに慎重な対応を求めた」のも同感である。
◆遅延戦術駆使する北
一方、これまでの非核化をめぐる経緯などから、北朝鮮への不信感と警戒を強調したのが読売(8日付)、産経(11日付)、小紙(同)の3紙である。
読売は「北朝鮮が過去の非核化協議でも駆使してきた遅延戦術に、米国ははまっているのではないか」と懸念。北朝鮮が「5月に核実験場の爆破作業を行っただけで、非核化に向けた措置はとっていない」のに、「北朝鮮の非核化が進展する前に国際社会の制裁圧力を緩める動きが出ていることは気がかりだ」と中国や韓国の動きを警戒。「まず、北朝鮮が核計画の全容を申告し、非核化の道筋を示す」ことが先決だとの主張も、これまた当然過ぎるほど当然である。
「北朝鮮に非核化の意志があるのかという当初からくすぶっていた疑念がやはり拭えない」とする小紙は、ポンペオ氏の来日で行われた日米韓3国外相会談で、北朝鮮が具体的な非核化行動を取るまで「国連安全保障理事会決議に基づく制裁継続を確認した。核をはじめ北朝鮮問題をめぐる3カ国の連携を再確認した意義は大きい」と評価。「まだ制裁網を緩める段階ではないことを国際社会に訴える」ことを強調した。
北朝鮮が「核・ミサイル戦力を放棄する気がないことがはっきりした」と断じる産経は強硬論をぶつ。北朝鮮に取るべき態度は「経済、軍事両面で名実共に『最大限の圧力』をかける路線に復帰すること」だと主張する。留意しつつも、今しばらくは協議の行方を見守りたい。
(堀本和博)





