直下型地震について踏み込んだ情報が欲しい文春「科学連載コラム」

◆発生機構は検証必要

 自然災害、例えば地震が起きると、早々に発生源や大きさが報道され、発生源に近い断層活動の震源元について語られる。しかし地震の実際の発生機構は、その後、詳細な検証期間が必要で、地震直後の見立ては確固たるものではない。

 2年前の熊本地震のケースで言うと、前震、本震の2度の大きな地震が立て続けに起きたメカニズムに対して、地震学を基にした専門家の検証はいまだ続いている。また当の地震は、経験的な事実として2004年の中越地震以外あまり起こっていない直下型であり、新しい知見が得られたはずだが、その中身や地震の教訓については十分、国民には知らされていない。

 西欧文明諸国の多くの国々のように地震がほとんどない所ならまだしも、大きな災禍が頻繁な日本では、専門的な見解であってもその検証の折々にパブリックにすべきだと思う。

◆南海トラフと無関係

 前置きが長くなったが、発生から3週間ほどがたった大阪北部地震についても専門的な検証結果を待ちたいが、今回の地震の特徴について、週刊文春の「科学探偵タケウチに訊く!」(科学作家・竹内薫の科学連載コラム、7月5日号)が幾つか挙げている。

 問答形式で、Q「大阪の地震で心配される点とは?」の答えがその内容。「まず、想定される南海トラフ地震との関係」として地震専門家とのやりとりから「今回は断層のズレによる直下型地震であり、南海トラフ地震はプレートの境界がズレる地震であるため、直接の関係はない」「大阪の地震が南海トラフ地震の引き金となる、というような意味での因果関係はない」ことを再確認している。

 地震の原因となるプレートと断層の各異常は相関しない。地震直後にも同様の指摘をした専門家がいたが、コラムニストなどが改めて自分の言葉で文章にすることで、より確かな知識や情報として広く世間に伝えることができる。

 コラムは「ただし」と続く。「別の専門家の意見として、過去のデータから、南海トラフ地震が起きる前には近畿地方で直下型地震が増える傾向がある、という記事も散見される。つまりメカニズムはわかっていないが、今回の大阪の地震が南海トラフ地震の『前触れ』である可能性は否定できない」と。

 その上で、筆者の竹内氏は「地震は予知・予報ができない代物なのだと感じた。数学的には『複雑系』に属するため、原理的に予知・予報は不可能だと思われるが、われわれは、過去の経験を活かして『次』に備えるしかない」と結論付けている。

 日本列島は活断層だらけで、その寄せ木細工によって成り立っているようなものだと言われる。こちらの寄せ木が動くか、そちらの寄せ木が動くか分からない。地震はいつどこで起こっても不思議ではないが、地殻変動で生まれた日本列島では、どこに住んでいても、地震の強い揺れから逃れることはできないというわけだ。

 うまくまとめているが、科学的知識を含むコラムとしてもの足りないのは、大都会の直下型地震の特徴について具体的な言及がなかったことだ。

◆地震学の現状を問う

 一方、地震の予知関係では、ニューズウィーク日本版の7月10日号に「『スロースリップ』が巨大地震を呼ぶ?」という記事が載っている。米国ではカリフォルニア州を南北に走る巨大な断層(サンアンドレアス断層)が知られる。これまで「同断層は『ゆっくり地震』とか『スロースリップ』とも呼ばれ」、エネルギー放出も徐々に行われていると思われてきた。しかし「小さな動きに見えるものは、実は加速と減速が組み合わさって」おり、「大きな地震の引き金になっている」ことが地震専門家の論文などで明らかになったというのだ。

 その上で「この変化する危険性を正確に推定し、それを地震予知システムに取り入れることが必要不可欠だ」としている。

 これに対しわが国の地震研究では今日、「予知」という言葉が消えて「災害軽減のための観測研究」となった。日本の地震学の現状はこれだけでいいのか、厳しく問いたい。

(片上晴彦)