拉致問題、米と連携し取り組み強めよ
北朝鮮による拉致被害者家族らは安倍晋三首相と面会し、今月中旬の日米首脳会談の際、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談を予定するトランプ米大統領に、日本人拉致被害者の救出を働き掛けるよう首相に求める決議文を手渡した。
首相は、拉致解決は最重要課題だと繰り返し表明してきた。トランプ政権と連携し、全ての被害者の帰国実現に向けた取り組みを強める必要がある。
被害者家族が首相と面会
拉致は北朝鮮による許し難い国家テロである。本来であれば、北朝鮮は全被害者の即時帰国と実行犯の引き渡しに応じなければならないはずだ。
それにもかかわらず、この問題に対する北朝鮮の姿勢は不誠実極まりないものだ。2004年11月には、被害者の一人、横田めぐみさんのものとする「遺骨」を提出したが、日本側のDNA鑑定で別人のものと判明したこともあった。
14年5月のストックホルム合意では、北朝鮮が拉致被害者らの再調査を約束し、特別調査委員会を設置する一方、日本が調査開始時に独自制裁を一部解除することを決めた。しかし日本の制裁解除後も北朝鮮は調査報告を先送りし、核実験やミサイル発射に対する日本の独自制裁に反発して再調査の全面中止と特別調査委の解体を宣言するなど、被害者の帰国を切望する家族の気持ちを踏みにじる行動を繰り返している。
めぐみさんが拉致されてから40年以上が経過し、被害者家族の高齢化も進んでいる。めぐみさんの母、早紀江さんは「今こそもう最後のチャンスだ」と首相に訴えた。
首相は家族の切実な声を重く受け止め、一日も早く全被害者の帰国を実現しなければならない。そのためにも、トランプ氏との首脳会談で解決に向けた連携を強化する必要がある。
トランプ氏は拉致問題に強い関心を抱いている。昨年9月の国連総会では、めぐみさんを念頭に「北朝鮮が善良な13歳の日本人少女を拉致したことを、われわれは知っている」と非難。11月の来日時に被害者家族らと面会した際にも、問題解決の必要性を強調した。
米国でも、大学生のオットー・ワームビア氏が北朝鮮当局に約1年半拘束され、昏睡状態で帰国後に死亡した。現在も米国人3人が北朝鮮から出国できないままだ。トランプ氏には、自国民の解放と併せて全ての日本人拉致被害者の即時帰国を強く求めてほしい。
北の出方を見極めよ
金氏は米韓両国との首脳会談に臨むほか、先月末には中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。こうした対話姿勢の背景に、日米韓をはじめとする国際社会の北朝鮮に対する最大限の圧力があることは確かだ。
もっとも、金氏は習氏との会談で非核化実現を表明したものの、あくまでも「段階的措置」で解決するという条件付きだ。北朝鮮は米韓に体制保証のほか、合同軍事演習中止や制裁解除などの敵視政策撤回を要求するとみられる。そこに非核化に向けた誠意は感じられない。拉致問題に関しても北朝鮮の出方を見極めるべきだ。