韓国入りした米特殊部隊 斬首作戦に備え訓練

有事に中国と核争奪戦も

 平昌冬季オリンピックに北朝鮮選手が参加することになった。公演団も帯同するというから、韓国メディアが“美女応援団”を追い掛けることになるのだろう。北朝鮮選手が韓国にいる以上、北からの軍事挑発はないと見られている。それどころか、南北会談に続き、米朝会談の話も出ており、緊張をはらみつつも朝鮮半島は対話局面に入っているかのようだ。

 とはいえ、各国の軍は常に非常事態への備えを解いていない。特に米軍が立てた北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)労働党委員長に対する「斬首作戦」はひそかに準備されているようだ。朝鮮日報社が出す総合月刊誌「月刊朝鮮」(1月号)で同誌編集長の文甲植(ムンカプシク)氏がその実行部隊の韓国入りを書いた。

 2011年、アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディンが暗殺された。実行部隊は米海軍特殊戦部隊のネービーシール(Navy SEAL)で、中でも最精鋭に挙げられる「チーム6」24人だったという。そのチーム6が昨年末から韓国入りして、極秘裏に金正恩斬首作戦の準備をしているという。

 ネービーシールは1961年、キューバのピックス湾侵攻作戦失敗を経て、ケネディ大統領(当時)の指示で創設された。「厳選された要員で構成され、大統領、国防長官の直接統制を受ける一種の“戦略兵器”だ」という。

 ここで「斬首作戦」をおさらいしておく。その字面から、まるで金正恩の首をはねるような印象を与えるが、そうではない。最高司令部と各軍指揮官との連絡・通信ラインを絶つことだ。「頭」である軍最高司令官・金正恩が現場の軍、具体的には指揮官(体)へ指示を出せなくなることを指す。その過程で「頭」の排除ということも起き得る。

 同部隊がメディアに捕捉されたのは昨年10月13日、「釜山港に入った米原子力潜水艦ミシガンで韓国入りし訓練中」と報じられただけである。メディアが載せた写真には「ミシガン上部の小型特殊潜水艇(ASDS)の格納庫と見える設置物」が写っていた。

 チーム6は現在、「平壌など北朝鮮指導部が潜伏する可能性のある地域を想定して、浸透・暗殺・狙撃訓練などを行っている」という。

 文編集長は、「ここ数年間、米特殊部隊員は韓国海軍特殊部隊員と北浸透訓練を繰り返し実施してきた」としており、潜水艇で北に浸透する計画である可能性を示している。

 さらに、シールと韓国軍部隊は、北に浸透し斬首作戦を遂行すると同時に、「北の核兵器を確保・除去するのに核心的役割を果たすことになる」と伝えている。北朝鮮が混乱に陥った時、真っ先に確保するのが核施設だ。これは米軍、韓国軍だけでなく、中国も抑えにかかる。

 中国は北朝鮮指導部が崩壊する際、大同江から北を制圧する作戦を立てている。主な核施設は全てその地域に入っているから、中国が北の核施設を完全掌握しようとしているということだ。

 北朝鮮の北部各地に散らばる複数の核施設を確保しようとすれば、大人数が必要だ。しかも施設は山間の僻地(へきち)にある場合が多い。確保・制圧も簡単な作戦ではない。韓国軍の斬首作戦部隊の規模は約1000人で、これが投入される米韓軍と中国軍との熾烈(しれつ)な核争奪戦が各地で同時に展開されることになる。これに北朝鮮軍兵士が加われば、混乱を極め、不測の事態が起こらないとも限らない。

 しかも、混乱に乗じて核燃料等を強奪して行こうとする第三者が乱入することも十分に考えられる。まさに“火事場泥棒”で、米軍はおそらく自軍以外には信用を置かない体制を取るだろう。

 同誌があえて「米大統領の戦略兵器」であるネービーシールが韓国で訓練中と明かしたのは、北朝鮮を牽制(けんせい)するためもあろうが、むしろ中国へのシグナルという意味合いが強い。北朝鮮崩壊はまた別の混沌(こんとん)をもたらす可能性があり、韓国が軍事行動を避けようとするのにも、それなりの意味がある。(敬称略)

 編集委員 岩崎 哲