北朝鮮問題の分析甘過ぎる毎日と「中露朝密輸ネットワーク」暴露した読売

◆ゲリラ侵入から50年

 新たな年を迎えた。平成30年、明治から数えて150年の節目の年。年頭から日本列島は寒波に見舞われている。どうやら厳冬の1月になりそうだ。お隣の朝鮮半島はどうだろうか。寒さはわが国よりはるかに厳しいはずだ。

 それで50年前の1968年1月の出来事が脳裏に蘇(よみがえ)った。その年も厳冬だった。凍(い)てつく休戦ラインを越えて北朝鮮の武装ゲリラ31人が韓国に侵入し、朴正煕・韓国大統領(当時)を暗殺しようとした。ソウルの青瓦台(大統領府)近くにまで入り込んだが、発見され銃撃戦の末、射殺されて事なきを得た。

 ゲリラのうち1人だけ生き残った金新朝氏に話を聞いたことがある。「朴大統領さえ殺せば、民衆は革命に立ち上がると教えられていた」と述べていたのが印象的だった。韓国に侵入後、ゲリラと知られないように日本製の背広とレインコートに着替えたとも。工作員が日本から調達したのか、ぞっとする証言だった。

 当時、わが国は(今もそうだが)「スパイ天国」と呼ばれていた。北の対日工作への警戒をもっと強めていれば、日本人拉致を防げたのではないか。木造船の漂着が相次いでいる日本海沿岸は大丈夫だろうか。そんな思いが年頭から巡る。

 新年の最大の懸念材料は「北朝鮮」だ。多くの国民がそう感じていよう。そうした危機感を反映して読売と毎日、産経が元旦紙面で北朝鮮モノを大きく扱っている。

 読売は1面トップで「中露企業 北へ密輸網」。北朝鮮が中国とロシア企業の手助けを受けて石油精製品を公海上で積み替え密輸している。それを証拠立てる契約文書を独自に入手したという記事だ。

 極東ロシアのウラジオストク、ナホトカなどから搬出されたディーゼル油が公海上で中国企業が提供したタンカーに移され、北朝鮮に持ち込まれているなどとしている。文書では荷受地に北朝鮮東西両岸の大型港として知られる清津、興南、南浦が指定されているという。国連の対北制裁の抜け穴となっている「中露朝密輸ネットワーク」を読売は暴いた。

◆亡命者の証言鵜呑み

 毎日も1面トップで、2016年8月に韓国に亡命した北朝鮮の元駐英公使、太(テ)永浩(ヨンホ)氏の単独インタビュー記事を載せた。日本人拉致問題について金正恩委員長が「拉致問題の解決と引き換えに、日本から巨額の資金援助を受けられることを望んでいる」とし、「資金を出すならば、日本に有利に解決するはずだ」と証言している。

 太氏の言う「巨額の資金援助」は100億円以上。記事には「北朝鮮はこの巨額資金によって経済難からの脱却を図ろうとしているのだろう」とある。これでは太氏は亡命外交官というより、まるで北のメッセンジャーだ。「証言」を鵜呑(うの)みにするのは危うい。

 ところが、毎日は「勝手な論理許されぬ」とする一方で、「北朝鮮側と粘り強く意思疎通を図り、事態を動かす時期に来ているのではないか」としている。甘過ぎる見方だ。これまで「対話」では事態を動かせなかった。だから国連の制裁が続く。核・ミサイル問題の解決を棚上げにして「巨額の資金」を日本から北朝鮮に渡すわけにはいかない。

 毎日も書くように「北朝鮮による日本人拉致は国家犯罪行為」で、「無条件で被害者帰国・真相究明・実行犯の引き渡しに応じなければならない」のが日本側の一貫した立場だ。拉致解決の道を探る気持ちは分かるが、金で解決するかのような安易な記事の垂れ流しはいただけない。

◆迫る危機語らぬ朝日

 一方、産経の1面トップは「中国軍拡 空母4隻へ」との中国モノだが、2、3面で朝鮮半島有事シミュレーションを掲載した。「米の攻撃 3月18日以降」「予備役招集 開戦シグナル」「日本も北工作員の標的」などと軍事危機をリアルに報じている。こうした有事にどう備えるのか、今年の最大のテーマだろう。

 さて、朝日はどうかと言うと、紙面に北朝鮮モノはない。元旦社説は「来たるべき民主主義 より長い時間軸の政治を」。長い時間軸には明治150年の視点はない。「先を見据えよ。憲法はそう語っている」といった観念論に終始し、身近に迫る危機を語ろうとしない。元旦とは言え、お目出たい紙面作りに唖然(あぜん)とする。

(増 記代司)