日馬富士暴行事件をめぐり貴乃花親方の「激白」を載せた新潮と文春

◆実際は支援者の証言

 日馬富士暴行事件に端を発した日本相撲協会の内紛が年を越しても収まりそうもない。それどころか、これからがヤマ場を迎える、というとき、週刊新潮(1月4・11日特大号)と週刊文春(同)がそろって貴乃花親方の「激白」を載せた。“貴乃花潰し”に対抗して、業界ツートップの“新潮砲”“文春砲”を動員した土俵外からの攻めかと思ってページをめくると…。

 週刊新潮は「『貴乃花』が本紙に激白!」「腹を割って本音4時間」とある。ついに同誌は貴乃花の口を開かせ、長時間にわたって話を聞いたか!と期待させるが、主見出しを改めて見ると、貴乃花にはカギ括弧(かっこ)が付いている。読んでみれば、括弧付の貴乃花は「貴乃花の支援者、タニマチ」のことだった。

 しかも「貴乃花親方は今回の事件の一部始終を余すところなく明かした」とあるのは、タニマチに対してであって、同誌へ激白したわけではない。羊頭狗肉(くにく)は週刊誌の習い性とはいえ、それでも、新潮がタニマチから聞き出した内容は他には出ていないもので読ませる。

◆事件の黒幕は白鵬?

 まず、事件の発端となった鳥取のスナックでの飲み会。当初、貴ノ岩らが出た鳥取城北高校相撲部の招集だったと伝えられてきたが、タニマチが同誌に明かした内容によれば、「白鵬が貴ノ岩を呼び出した」というのが真相のようだ。

 去年初場所13日目が終わった日に、貴ノ岩には「白鵬の側近からの電話は何度も連続してかかってきました」という。翌日の取り組み相手が白鵬で、ここで白鵬が落とせば優勝はなくなり、稀勢の里が賜杯を手にする、というタイミングだった。

 貴ノ岩は「“どうせ翌日の星の話だろう”と直感し、電話に出なかった」という。白鵬は「屈辱の惨敗」を喫した。これで貴ノ岩は「ガチンコで横綱白鵬に勝った」と吹聴し始める。それが白鵬の耳にも入り、鳥取での呼び出し、説教へとつながったというのである。

 暴行のきっかけとなった貴ノ岩のスマホについても、「彼女からのメール」ではないという。「白鵬から“せっかく鳥取城北高校の関係者が集まっているのだから、他の人も呼んだらどうか”と言われて、スマホで複数の人に誘いの連絡を入れていた。すると突然、飲み会の最中にその返事が続々とくる。それでスマホを操作していたら“なに携帯触っているんだ”と」なったのだという。これもきっかけは白鵬だ。

 暴行を誰も止めなかったことや、白鵬が言ってようやく止まった、という状況も、その場を支配していた“黒幕”が白鵬だから、とみれば納得がいく。

 貴乃花が協会への報告を怠った件についても、同誌12月21日号でも伝えられたように、伊勢ヶ濱親方に託していたことが改めて述べられている。理事会に提出された貴乃花の報告書内容も、タニマチは詳しく同誌に語っている。

 記事はほぼタニマチの話に依拠したもので、貴乃花本人の言葉はわずかだ。“贔屓(ひいき)目”が入っている可能性もあるが、一方的な話として切り捨てられない内容だ。

◆角界の将来に危機感

 一方、文春は経緯を深く書きながら、貴乃花の「角界の将来への深刻な危機感」にも重点を置いて伝えている。やはり詳しい話は「貴乃花に近い関係者」などに聞いたものだ。

 貴乃花は少子化が進み、相撲になじみがなくなっている状況を危惧し、相撲学校の創設や子供たちに相撲に触れる機会を増やそうとしていた。しかし、「親方たちはそうした地道な土台づくりよりも、すぐに結果の出る外国人力士に頼り、協会執行部も認めてきた。その結果が、モンゴル勢の土俵席巻であり、白鵬の『勝てばいい』という相撲観」につながったというのだ。同誌はよく貴乃花の危機感と取り組みを伝えた。

 今回の騒動の根底には「相撲観」が横たわっている。「勝ってこそ品格」とうそぶく白鵬スタイルの是非については既に協会や評議委員会に寄せられた「意見」でも明らかだ。国技である相撲が「SUMOU」に変形していってはならない。

 この騒動を載せれば週刊誌は売れるだろう、しかし、これが単なるスキャンダルではなく、「相撲道」を懸けた戦いであることにも常に目を向けてほしい。続報を期待する。

(岩崎 哲)