「凍身政策」には呆れるが原発製造躍起の中国の実態つくべきNW日本版

◆凍える北部中国人民

 一部の全国紙にも出ていたが、今冬、中国北部の住民たちは、暖房が使えず凍えながらの生活を余儀なくされているという。ニューズウィーク日本版(12月19日号)の「中国の大気改善のため暖房なしの厳寒に耐えよ」と題した記事で、シャーロット・ガオという記者が報じている。

 「中国北部の住民は、ここ数十年で『最も寒い冬』に直面している」という書き出し。ぼたん雪降りしきる屋外に火の気はなく、身体を持て余している人影の写真説明は「この寒さのなか石炭暖房は使えない」―。

 なぜかと言うと、それは「気象ではなく当局の石炭暖房禁止令が原因だ」。この「禁止令」は10月の共産党大会で、習近平総書記(国家主席)が「青空を守る戦いに勝つ」と強調したのに応え、環境保護省が脱石炭の至上命令を各地方政府に出すに至ったことを指す。特に「当局は対策に本腰を入れ始め(中略)北部地域を主要ターゲットに、17年末までに石炭燃料から天然ガスへの転換を図るよう目標を掲げた。だが大気改善は目標に届かず、代わりに住民を凍えさせている」。

 住民の苦境はハンパでない。例えば「山東や河北など北部の省では石炭暖房が厳格に禁止され、ガス暖房も普及していないために、住民は住宅でも学校や工場でも暖房なしの生活に耐えている」「河北省の学校では太陽の薄日で暖を取るため屋外で授業が行われ、陝西省では建設作業員が屋外で石炭を燃やして逮捕された」。

 「大気汚染が原因で毎年160万人が死亡している」というのも驚くばかりだが、その対策で、住民に“火種”を一切与えない、というのはあまりにも極端。拷問に似た行いだ。

 「9月には環境保護省が、地方政府に大気汚染の全責任を負うよう通達。『対策の遅れや放置は許されない』と通告した。北部住民を凍り付かせた原因は、こちらにありそうだ」と、ガオ記者は精いっぱいの皮肉を込める。

 住民の悲劇の一幕を鋭く切り取った告発記事でもあり、短い文ながら訴えるところは大きい。だが…、と思う。“凍身政策”に呆(あき)れ、非難のつぶてを投げ付ける読者が大多数だと思うが、この状況を分析するには、さらに中国の野望、無謀なエネルギー政策を見据える必要がある。

◆原発176基を計画

 今年、国連気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)が行われたドイツのボンの地元紙に、「気候変動との戦いは、人間の使命である。中国はその教訓を学び、低炭素成長のために努力している」という習国家主席のメッセージが載っていた。ことあるごとに出されるメッセージだ。それに対し、世界の二酸化炭素(CO2)排出に占める中国の割合は、2016年度で、28・3%になる。この言行不一致の事実はいかんともしがたい。もちろん石炭暖房禁止令による大気汚染解消の効果を期待したいが、習国家主席の言葉が成るとは到底思えないし、政策立案の当事者らも同様だろう。

 気候変動抑制に関する多国間の国際的な合意であるパリ協定のルールづくりを見ても、中国やインドは、先進国と開発国の対立のはざまで自国産業に有利なルールを主張している。中国の巧みな交渉は、自国が原子力発電などの近代的エネルギー政策を確立するための時間稼ぎであるという面を見逃せない。

 実際、中国は現在、原子炉20基を建設中。それとは別に、他国をはるかに上回る176基が計画もしくは提案されている。このままでは2026年までに中国は米国を抜き、原子力発電によるエネルギー生産量が世界一になる。原発施設の製造をしゃかりきに進めているのだ。風力や太陽光発電にも大きな投資を行い、米国と競合できるよう力を入れる。

◆メディアは政府擁護

 記事では、「中央の政府系メディアでさえ、石炭からガスへの地方政府の『性急過ぎる転換政策』を批判」するが、「その一方で、地方政府に重圧をかける中央政府は擁護」しているという。

 石炭暖房禁止令で人民を締め付ける一方、原発製造に血道を上げる。破格の製造スピードに、安全性チェックの怠りを指摘する専門家は少なくない。中国政府の欺瞞(ぎまん)のエネルギー政策を厳しく指摘すべきだ。

(片上晴彦)