韓国軍慰安所「歴史的スクープ」めぐり文春と新潮のバトルが勃発か

◆文春の報道は捏造?

 ライバル誌が報じたスクープ記事を検証する…。週刊誌の双璧である週刊文春と週刊新潮の間で一つの記事をめぐって“バトル”が繰り広げられようとしている。

 焦点の記事は週刊文春が2015年4月2日号で報じた「歴史的スクープ」だ。TBSワシントン支局長(当時)の山口敬之氏によるベトナム戦争当時、韓国軍がベトナム人女性を使って専用の慰安所を造っていたことが米公文書で確認されたというもの。「日本軍従軍慰安婦」を追及する韓国の面目を失わせる“痛快スクープ”として注目された。

 ところが、週刊新潮(10月26日号)はこれに「捏造(ねつぞう)疑惑」があると報じた。1個の話題としては異例の8ページに及ぶ“大作”で、しかも記事の信憑(しんぴょう)性を問うだけでなく、記者が政権の意を受けて書いた“忖度(そんたく)”報道だったのではないか、との疑義を打ち出しているのだ。

 新潮が「捏造」としているのは、ベトナムに従軍した米軍人の証言が捻(ね)じ曲げられている点だ。同誌はこの軍人アンドリュー・フィンレイソン氏を訪ねて直接聞いている。すると、同氏は明確に韓国人専用の慰安所があったとは言っていないということが明らかになった。「<私は直接存じておりませんので、お答えすることはできません>とキッパリ話している」というのである。山口氏が証言を都合のいいように解釈し、つまみ食いした可能性があるということを強く示唆しているわけだ。

◆文春側の反論に期待

 また、山口氏は駐米公使と数回メールのやり取りをしていた。報道を受けた東京での官房長官会見や国務省の記者会見でこの問題を質問する段取りなどを“打ち合せ”するとも取れる内容だ。

 もし、韓国軍がベトナムでベトナム人女性を使った慰安所を造って運営していたとすれば、韓国から批判されて続けている安倍首相にとっては格好の牽制(けんせい)材料になり、安倍政権にとって山口氏の記事は強力な援護射撃になる。

 だが、当時、何よりも疑問に思われたことは、この「歴史的スクープ」をなぜTBS自体が報じなかったのか、そして、なぜ山口氏は記事を週刊文春に持ち込んだのかということだ。今回の新潮の取材に対してTBSは、「報道するに足る十分な裏付けがないと判断し、放送はしていません」と答えているのに対して、文春は、「真実性、少なくとも真実相当性があると判断し、記事掲載に至りました」と説明した。

 文春はこのコメントで終わりにするのか、反論記事を載せるのかは不明だが、読者としては、新潮が投げたボールはまだ山口氏、文春側にあると思う。しっかり根拠のある反論が出てくることを期待したい。

◆本筋と違う話題挿入

 ただ、残念なことは、「スクープか捏造か」という極めてジャーナリスティックなこの記事に、本筋とは違う話題が差し込まれていることだ。山口氏からの「レイプ被害を訴えてきた伊藤詩織氏」のエピソードである。この「準強姦罪」は不起訴となったが、伊藤氏はこの話題を本にした。しかも出版元が「文藝春秋」。このくだりは記事の構成上、必要なことだったのか。

 このエピソードを含め記事全体からは山口氏を貶(おとし)めようとする意図がうかがえる。「安倍首相に最も近い記者」といわれた同氏を引きずり下ろすことで、安倍首相のイメージを損ねようとの底意が透けてくるのだ。

 山口氏の記事の信憑性が疑われるのであれば、徹底して検証し、決着を付けるべきである。そうではなく、山口氏攻撃で、韓国軍がベトナムでやってきた“戦闘以外のこと”に向けられている関心が薄れることがあってはならない。

 もし本当に韓国人専用慰安所があったとすれば、今問題が表面化している韓国兵士がベトナム女性に産ませた「ライダイハン」問題は、たとえ生じたとしてもわずかだったはずだ。しかし、現実には「2万人」と推算されている。一般的に慰安所とは兵士の性病罹患と現地人へのレイプを防ぐことにある。

 戦時下における女性被害は時と場を選ばずに発生してきた。一国の女性だけが慰労されるのではなく、歴史上、世界中の被害女性に目が向けられ、慰められるべきではないか。

(岩崎 哲)