未婚率急増に対し匿名氏の発言とらえ安手の分析に終始した週刊朝日
◆4人に1人が未婚男
週刊朝日9月25日号の「未婚・独身男が増えている裏事情」は「国立社会保障・人口問題研究所の調べで『50歳まで一度も結婚したことのない男性』が4人に1人に。2035年には3人に1人になるとの試算だ。未婚・独身男がマジョリティーになりつつある裏事情を探った」(リード文)というもの。
独身男性Aさん(56)は、慶応大学出身でIBM勤務を経て全国紙記者で活躍したという。「よく周りに『一人で寂しくないの?』と聞かれますが、全く感じません。彼女もいましたし独身主義者でもありません。お酒を飲むのが好きなので、居酒屋などに飲みに行けば、その場に集まった人たちと疑似家族的な付き合いはできます。周りの既婚者を見ても、家計の柱は夫なのに主導権は妻が握ってます。いびきがうるさいとか、トイレの蓋の上げ下げとか、妻の顔色をうかがう生き方をしているようにしか見えなくて、疲れると思う」「健康問題もなく、人生悔いなく生きてますよ」と話す。
Aさんのこの発言を導入部分として、評論家たちが、結婚しない男の定義についてコメントするという記事体裁。博報堂シニアプロモーションディレクター・荒川和久さんは「Aさんのように『結婚できない』ではなく、『あえて結婚しない』層がいることを指摘したい。ちゃんと働いて、親などに金銭的な依存もしない。自由、自立、自給の価値観を持っている独身男性が世代を超えた特徴としてあります」と。
またマーケティング評論家、牛窪恵さんは「今は男損時代。結婚しても小遣い3万円台が主流の調査結果もあり、お金や時間が自由にならない。周りの既婚者も幸せそうに見えないのでしょう。結婚のメリットは子供ぐらいに思えて、趣味などを犠牲にするのも馬鹿らしい」。
◆結婚意志ありは9割
いかにも安手の分析だと思う。タイトルにあるように「裏事情」と称した「あえて結婚しない」層の存在などの指摘は、従来、言われたことで新味がない。
今、結婚する意思を持つ未婚者は9割前後の高さで推移しており、20、30代も多い(内閣府・平成26年版「子ども・若者白書」)。記事は、こういった元気な未婚者を考察の対象にすべきであって、くだんのAさんのように、人生の酸いも甘いも知った立場の人の話は、未婚率急増の事実を分析、解消するものとして、この際、さほど参考にならない、考察の対象外とすべきだ。
今日、結婚しなければならない、結婚して当たり前、結婚して一人前、という価値観がぐらつき、社会の安定性が懸念される。くだんの評論家諸氏も、そのことは薄々承知しているはずだが、口に出さない。
ここで「夫婦とは結婚している一組の男女のことだが、夫婦のつながりは、社会のつながりにも影響を及ぼしている」という東京未来大学学長の大坊郁夫さんの結婚の意義についての主張を紹介したい(一般社団法人実践倫理宏正会会報『倫風』10月号から)。
「夫にも妻にも家族、親戚がいます。夫婦とは、それぞれの血縁関係を巻き込んだ社会的な単位です。(中略)個人が持つ資質や能力には限りがあります。姻戚ネットワークを広げることは、自分にないものを補うことにつながります。こうした助け合いの結びつきを持つことで、社会に一体感が生まれ文化が育まれるのです」
つまり「夫婦は個人を超えた社会的な単位。円満な夫婦が増えれば、社会はより住みやすくなるのではないか」というわけだ。
一方、「経済的不安」やそれに付随する住宅・子育て事情が先立ち、結婚しないということが言われるが、未婚急増についての理由としては、必ずしも言い当たらないように思う。
例えば、子供の世話を受けない、将来、子供は当てにしないとするお年寄りが増えており、今の若者の多くは、親の経済的な面倒を見るという義務を相当、免れている。あまり指摘されないことだが、若者にとってこの解放感は人生設計においてかなり大きいファクターではないか。
◆寛容過ぎる親は問題
子供に頼らないという世代の出現は素晴らしいことだが、一面、子供に寛容過ぎる結果でもある。結婚しない息子・娘に対しては、もっとせっつくべきではないか。
(片上晴彦)