憲法や安保問題を避け安易なテーマで劇場型政治を助長する各番組
◆小池氏の巧みな戦術
9月28日の臨時国会の冒頭で衆院が解散され、選挙戦が事実上スタートした。安倍晋三首相は、解散理由に消費税増税の使途変更と北朝鮮情勢への対応を挙げ、「国難突破解散」と命名した。
しかし、連日テレビ番組をにぎわすのは、消費税や北朝鮮情勢についてではなく、新党「希望の党」の代表に就任した小池百合子東京都知事の動向だ。小池氏は、安倍首相による解散表明会見と同じ日に新党結成を発表した緊急会見をぶつけるなど、サプライズを演出。その後、民進党が希望との「合流」を了承したこともあり、同氏への注目は一段と高まった。
小池氏は、昨年の都知事選、今年7月の都議選に続き、今回の選挙戦でも巧みなメディア戦術を見せている。
27日放送のフジテレビ系「直撃LIVEグッディ!」では、「小池旋風どこまで…? 希望の党・旗揚げ舞台裏」として、この日の午前に行われた希望の結党会見を取り上げ、他党との連携の動きや小池氏が国政と都政の“二足のわらじ”を履くことの是非について議論した。
◆争点とすべき北朝鮮
スタジオの空気が変わったのは番組開始から約50分経ってからだった。ジャーナリストの木村太郎氏が、新党をめぐるスタジオでの議論について「今扱っている問題はコップの中の嵐」だと指摘した上で、真の衆院選の争点は「北朝鮮以外にない」と主張した。続けて、外国メディアは安倍首相が選挙を行う理由は北朝鮮問題だと見ているとし、北朝鮮問題こそ選挙戦で議論すべきテーマだと説いた。
しかし、これに司会の安藤優子氏は「北朝鮮が争点というのが、全然理解できない」と反対意見を表明。北朝鮮の脅威を取り除いたり、防衛体制を整えることは大事だが、「選挙で問う話ではない」と言うのだった。
木村氏は、さらに北朝鮮問題に対する議論の先にあるテーマとして憲法改正にも言及したが、安藤氏は「憲法改正自体は安倍さんが一言も言っていない」と返した。
北朝鮮による核・ミサイルの脅威にさらされている現状を考えれば、憲法9条の改正を含め、安全保障政策についての議論を争点に取り上げるべきだ。
本来は各政党が真正面から訴えるべきテーマでもあるが、こうした議論を避けるメディアの姿勢にも問題があると言える。
テレビ番組は、安全保障政策のような“硬い”テーマを避け、分かりやすく絵になるような内容を好む傾向がある。それが今回のような劇場型政治を助長していると言えるだろう。
◆両党の認識に隔たり
一方、民進党の前原誠司代表は28日、民進の公認内定を取り消し、希望へ事実上、合流するという前代未聞の奇策に出た。この日のBSフジのプライムニュース『総選挙2017勢力図激変 各党に問う戦略と覚悟 「希望」狂騒曲の結末』と題して、各党の幹部を招いた。スタジオでの議論は、事態の急展開により混迷した状況を映し出していた。
希望の細野豪志氏は、民共共闘路線について「この国の二大政党制ということからすると、非常にいびつな動きをしてきた」と強調。本来の二大政党制を確立するためにも、安全保障政策、憲法改正などで「譲れない一線」があるとし、理念や政策によって民進からの公認希望者に対して選別を行う必要があることを説いた。
この発言に民進党選対委員長代理の篠原孝氏は「われわれはそんなふうに考えていない」と反発。「安倍一強政治に対して野党が力を合わせて、細かいことはごちゃごちゃ言わずに選挙で数を増やして立ち向かっていこうと。細野さんのように入り口でそういうこと言っていては始まらない」と訴えた。
この日、篠原氏は「小池さんに敬意を表して」と言って緑のネクタイを締めてきたほどの気持ちの入りようだったが、両者の認識の隔たりをうかがわせた。
いずれにしても、民進所属候補を希望が公認するかの判断は小池氏に委ねられている。
希望の結党によって、日本の政治が二大政党制に向かうのか、これまで繰り返された新党ブームの一つとして終わるのかが注目される。今後、希望が「第二民進党」や「野合」という批判を払拭(ふっしょく)するには、民進党には欠落していた明確な外交・安保政策を打ち出すことは欠かせない。
(山崎洋介)