御用メディアが多い中東で批判を浴びるカタールのアルジャジーラ
◆自由で独立した報道
カタールの衛星テレビ局アルジャジーラ。サウジアラビア、エジプトなどアラブ4カ国から閉鎖要求を突き付けられ、強い圧力にさらされている。イスラエルでも、支局の閉鎖が決まるなど、体制に左右されず、自由で独立した報道で定評があったアルジャジーラへの風当たりは強まるばかりだ。
米誌タイムは、カタールのドーハからの記事「アルジャジーラは湾岸危機を乗り越えられるか」で、アルジャジーラ閉鎖要求をめぐる現状を伝え、強権支配の下で自由な報道が行われにくい環境、アルジャジーラの「テロ支援」とも取られかねない報道姿勢など、中東特有のメディア事情を浮き彫りにしている。
アジャジーラが生まれたのは1996年。カタール政府からの支援を受けて発足し、中東で最大規模の衛星放送へと成長した。体制に迎合するメディアの多い中東で、自由な報道姿勢は、世界から注目を集めた。だが同時に強い批判も受けた。
アルジャジーラは米同時多発テロの首謀者で、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンの映像を流したことで一躍、世界で知られるようになった。
◆独裁国家いら立たす
最近では 2015年6月に、シリアのアルカイダの指導者、アブ・ムハンマド・ジョラニに初めて独占インタビューを行ったことが話題を呼んだ。
「このインタビューには、アルジャジーラを世界で最も影響力のある、最も議論を呼ぶニュースネットワークにしてきた全ての要素」が内包されているとタイム誌は分析する。大スクープだったが同時に、「過激主義、偏狭な主張のための場所を頻繁に提供している」という批判を招いた。
アルジャジーラ幹部のムスタファ・ソーアグ氏は7月、タイム誌にこのインタビューについて「意見が一致しようと、するまいと、人々はジョラニが何を考えているのかを知りたがっている」と、報道の意義を訴えた。
アルジャジーラは、一方で「テロを支援」しているなどの非難にさらされながらも、報道に対する体制からの規制が強い中東アラブ諸国で、独立した自由な報道が評価され、支持されてきた。だが同時に、自由な議論を呼び、時には体制批判を招いてきたことが、周辺の「独裁国家をいら立たせてきた」。
サウジ、エジプト、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)のアラブ4カ国が「テロを支援している」として6月5日にカタールと断交を表明したのにはこのような背景があった。その中で4カ国は、アルジャジーラの閉鎖を求めた。
「アルジャジーラをめぐる意見の対立は、かつてないほど鋭くなっている」とタイム誌は指摘する。それはそのまま、11年以降の民主化運動「アラブの春」、イスラム主義の政治への関わりをめぐるカタール、サウジ間の対立と分断を反映したものだ。
◆「偏向報道」の指摘も
だがアルジャジーラは近年、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」寄りの論調が目立つなど、「中立性を欠く」という批判を受けている。転機は13年のエジプトの政権交代だという。同胞団系のモルシ大統領が退陣に追い込まれたが、一方では革命、一方ではクーデターと見方は割れる。だが、アルジャジーラの同胞団寄りの報道で、エジプト人職員が反発、エジプト政府からも強い非難を受けた。
パレスチナやシリア情勢などでも「一方的な報道」が目立つようになったアルジャジーラについて支持者らは、「独断的という点では米FOXニュースも同じ」「親サウジのアルアラビアと変わらない」と主張する。
タイム誌は「中東ほどニュースをめぐる対立が激しいところはない」と指摘する。その点、双方の意見を報道してきたアルジャジーラのようなメディアは中東にとって重要な存在のはずだ。しかし、近年の「偏向報道」の指摘を受けて視聴者減は避けられないという。
タイム誌は「反アルジャジーラ・キャンペーンが、アラブ人に特有で、対立的な世論をうまく操作することに成功すれば、中東のメディアから重要な部分が失われてしまう可能性がある」と、アルジャジーラのような自由で独立した報道機関の失墜に警鐘を鳴らしている。
(本田隆文)