自衛隊違憲論はなくならない


 安倍晋三首相(自民党総裁)は、自民党の憲法改正案を今秋の臨時国会が終わる前に衆参両院の憲法審査会に提出する意向を表明した。国会は研究機関ではなく立法機関であり、「調査・研究」を際限なく継続すべきでない。ただ、問題は改憲の内容である。

 現行9条に根拠規定追加

 首相の構想では、9条の戦争放棄(1項)と戦力不保持・交戦権否認(2項)を規定した条項はそのまま維持し、新たに自衛隊について根拠規定を設けるようだ。

 この構想では憲法内に相反する内容の規定が並立するので、自衛隊違憲論を増大させこそすれ、沈静化させることはできないであろう。それどころか、現行憲法の欠陥是正を期待していた改憲論者を落胆させることにもなりかねない“国会対策”優先の下策である。

 米国憲法では、禁酒規定(修正18条)とその廃止規定(修正21条)が併存している。首相はこれにヒントを得たものであろう。米国では「後法」が「前法」に優先するとの解釈方法が確立しているので矛盾は生じない。

 だが、このような成文憲法の規定の仕方は米国独自のものである。欧州諸国では、日本でいう「解釈改憲」に近い「憲法の変遷(へんせん)」と呼ぶ解釈方法を採用しており、米国のような方式ではない。

 日本の法解釈では、同格の法文中に相反する条項がある場合は、より制約的な内容の規定の方が優先される。9条1項の「武力による威嚇又は武力の行使」は「国際紛争を解決する手段として」という条件付きで放棄しているだけだから、首相の構想を採用しても、新たな自衛隊保有規定と1項は必ずしも矛盾しない。

 これは不戦条約の規定を取り入れたものであり、国際社会では、放棄対象を「侵略戦争」と解釈している。イタリア憲法にも日本と同様な規定があるが、軍を保有し、徴兵制をも採用している。

 しかし、新たに挿入する自衛隊保有規定と2項の戦力不保持・交戦権否認とを比較すれば、2項の方が明らかに否定的だ。このため、自衛隊違憲論が減少することはなかろう。

 国家にとり防衛機能は「属性」である。属性とは、組織がそれを喪失した場合は存在理由を失う本質的な機能である。従って、世界のほとんどの国の憲法では、自衛権や軍保有について規定していない。例外は米国、旧ソ連、中国だが、それは特殊事情があるからだ。

 米国の場合、建国に参加した13州が軍事組織を保有していたため、それらとの区別が求められた。ソ連は共産党の私兵だった赤衛軍を国軍に切り替えるためである。ちなみに、ロシア憲法には軍保有規定はない。中国の人民解放軍は中国共産党の私兵であり、共産党独裁だけでなく国家の安全を守る任務をも与えているから、憲法上の規定が必要なのだ。

 最高指揮権の所在明記を

 憲法に防衛関係で記載が不可欠なのは、最高指揮権の所在や、武力紛争時の開始、終結を判断する機関、非常事態規定などである。