左派の大学・学界占領を批判

ソウル大に掲げられた壁新聞

 韓国で朴槿恵(パククネ)大統領弾劾審理が続けられていた時、ソウル大に「大字報」が掲げられた。大字報とは壁新聞のことである。全国で「朴槿恵退陣せよ」との“ろうそくデモ”が繰り広げられていた中で、この壁新聞には「弾劾は不当だ」「自治会は運動圏(左派学生運動)から自立せよ」「運動圏の主張を繰り返すのは知性の自殺だ」と、きわめて真っ当な主張が掲げられていた。

 「月刊朝鮮」(4月号)では同誌記者が壁新聞に記載されていた連絡先にメールして、掲載者とやり取りをした。同大大学院の法学博士課程に在学中の学生であった。

 周囲がほとんど「弾劾賛成」の中で、反対意見を連絡先を付けて公開するのには勇気がいっただろう。「運動圏」はかつての日本の過激派セクトほどではないが、中枢メンバーには北朝鮮との関係が濃厚な者もいて“危険”がないわけではない。

 大学院生はしかし、「総学生会(自治会に相当)が『民衆蜂起』を呼び掛けている」ことに疑問を抱いた。彼らが「ろうそくデモへの動員を行い、何が真実かの議論から目を背けながら、既成運動圏の政治扇動をオウムのように繰り返している」姿に強く反発した。「運動圏は学生の意見を反映できない。政治的に偏向した一部の意見が大学全体の意見のように利用されている」ことに危機感を持ったのだ。

 しかも、メディアが一方的な報道しかしないことや、多くの学生が運動圏の勢いに押されて、自分の意見を表明できないでいることに“義憤”を感じ、壁新聞掲載に踏み切った。

 主張は明確である。同誌によると、大学院生は「純粋な民主化運動が独裁政権の暗い面を明らかにしたとすれば、今は民主化勢力と呼ばれる左派権力の暗部も直視する時だ」として、彼らの「底辺には社会主義革命に向かった狂的な宗教的渇望が隠れている」と喝破している。さらに、「北朝鮮の三代世襲を称賛する自らの矛盾を克服できない」とも批判する。テロにでも遭いそうな激しさだ。

 大学院生は、「左派権力に占領された大学と学界を回復する運動を持続的に進めるつもりです」と同誌に語る。ここで重要なのは、「左派権力」と言っていることだ。80年代の運動圏学生らは卒業後、労組などに進む職業運動家の他に、教育、司法、政界など社会の各層に浸透していった者が多く、現在、社会の中核世代、エリートとなっている。赤化統一を手引きしたとして「内乱陰謀罪」で逮捕された李石基(イソッキ)元国会議員の例はそれを端的に物語るものだ。

 さらに「左派権力に占領された」のは大学だけでなく「学界」も挙げている。これは非常に重要だ。司法界がしばしば左派寄りの見解を出すのは、運動圏の浸透が進んでいることの証左である。

 この壁新聞は1回限りのものではなく、弾劾審判が下るまでに3回掲示された。4回目も計画されている。2回目以降は賛同する学生の実名を記載し、今後も研究集会、講演会、ニュースレター発行などを行っていくとしている。

 「太極旗集会」が最初は少人数だったものの、1月の集会を境にろうそくデモを上回る参加者を集めるようになった。ろうそくデモが民労総などが中核となって運営されていたのに比べて、太極旗集会は核となる組織もなく、参加者も手弁当で駆け付けるなど、自発的な運動として成長していった。

 ソウル大の壁新聞も、これと似ている。左派権力である運動圏が支配する学生会が主導したろうそくデモ動員とは違って、壁新聞は自発的に取り組まれたものだ。ソウル大にまだ「知性」があることを示している。

 編集委員 岩崎 哲