日韓の軍事情報保護協定
必要性説く保守メディア
かつて韓国は日本文化開放をすれば、韓国の映画産業や文化コンテンツ業界が打撃を受けると反対していた。ところが、いざ、ふたを開けてみると、逆に日本に「韓流ブーム」が巻き起こった。韓国コンテンツが大量に日本になだれ込んだのだ。まったくの杞憂(きゆう)にすぎなかった。
植民地支配など歴史問題から韓国民が日本に対して抱く感情は複雑だ。中でも警戒感は、時に滑稽ですらある。「日本は再び韓国を侵略する」などと知識人が真顔で言うのを聞くと、同じ土台に立って話ができない無力感さえ覚えるほどだ。最近では、相互の軍事情報を交換するために結ぶ「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)がその際たるものだった。
紆余(うよ)曲折を経て、ようやく同協定は11月23日に締結された。外交、国防などの専門家であれば必須の協定であることは自明なのにもかかわらず、韓国の国内事情、なかんずく左派によって唆された国民感情によって、締結が大幅に遅れたのだ。
同協定は4年前の2012年6月に1度締結のチャンスがあった。ところが署名50分前になって、韓国側が“ドタキャン”してきた。李明博(イミョンバク)大統領(当時)が次官会議(政府内部議論)を経ずに、閣議でこの案件を非公開で処理したことに野党とメディアが反発したのを受けてのことだった。
その後、李大統領は竹島への不法上陸(同年8月)、天皇陛下への謝罪要求(同)などを行って、日本の反韓感情を育て、収拾のつかない状況をつくった。そのため、専門家たちはその必要性は認識しながらも、締結までに4年を待たねばならなかったのだ。
「月刊朝鮮」(12月号)で軍事関係のコラムを受け持っているオ・ドンリョン記者が、GSOMIAは「北核対応のためには絶対避けられない選択」として解説を書いている。これは今回の締結前の記事で、駄々をこねる子供に噛(か)んで含めるように必要性を説いたものだ。
韓国軍関係者によれば、そもそも軍事情報の交流協定を提案したのは韓国の方が先だったという。1970年代に朴正煕(パクチョンヒ)大統領(当時)が進めたが、成約しなかったとオ・ドンリョン記者は書く。これに対して日本側は1987年にGSOMIAと同じような協定を持ち掛けたが、これも締結に至らなかった。
締結できなかった理由は“戦犯国”日本への不信からだが、北朝鮮の核・ミサイル開発が深刻な状況になり、現実的な軍事的脅威の増大の前に、協定を拒んでいる状況ではなくなった。韓国の保守メディアでも協定の必要性を説く記事が目に付くようになった。この記事もその一つである。
実際に韓国はGSOMIAをロシアを含め32カ国と結んでいる。民主主義など同じ価値を共有し、現実に最も有効な情報を入手できる相手である日本を拒むのは、どう見ても理性的な判断ではない。
「宋和燮(ソンファソプ)国防研究院日本室長」は、「韓半島に再び日本軍を入れてはならないという国民感情が強く支配する」からだとしながらも、「国際社会で韓国が日本に対してだけ安保・軍事的な障壁を構えていることが、果たして国益に合致するのか慎重に考えてみる必要がある」と促している。
実際に、韓半島有事に際して、駐日米軍が後方基地になる。協定がなければ、「2017年から導入されるF35A戦闘機の整備拠点も日本」にしかないなど、最新鋭兵器を十二分に韓半島へ投入できない事態も生じ得る。日本側から提供される情報も物もはるかに多く高質なのだ。
日本文化開放が韓流ブームのきっかけになったように、GSOMIAは日本を守ることはもちろんだが、最大の受益者はむしろ韓国となるだろう。初代駐ロシア海軍武官を務めた尹鐘九(ユンジョング)提督は、「協定は毒でなく薬」とし、「日本を“未来の敵”でなく、北核問題を解決するための“協力国”として認識する姿勢が必要だ」と強調する。締結後の今も野党は反対するが、次の政権はこれらの指摘をどう聞くのだろうか。
編集委員 岩崎 哲