数字は良かったGDP成長率に「内需」不振で警鐘ならす保守系各紙
◆外需主導成長を懸念
「内需後押しの環境作りを急げ」(読売)、「不確実性に耐える改革を」(産経)、「将来不安を映す民需の低迷」(日経)、「自律的拡大へ内需の強化を」(本紙)――
これは14日の今年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値の発表を受けての各紙社説(15日付、本紙は16日付)の見出しである。
7~9月期GDPは既報の通り、実質で前期比0・5%増、年率では2・2%増だった。「0%台前半とされる潜在成長率を大きく上回る伸び」(読売)で、3四半期連続のプラス成長は第2次安倍内閣が発足した直後以来、3年ぶりである。
しかし、各紙が社説で示した論調は、見出しの通り、内需または民需の低迷を懸念するものばかり。「中身をみると、民需の柱である個人消費と設備投資が低迷しており、数値ほどよくない」(日経)からである。
7~9月期で成長を牽引(けんいん)したのは外需である(成長率への寄与度は内需プラス0・1%、外需プラス0・5%)。日経、本紙が指摘しているが、外需は輸出から輸入を引いた値で、外需の成長率への寄与が大きかったのは、輸出が伸びた分とともに、「内需の弱さから輸入が4四半期連続で減ったため」(日経)でもある。「手放しでは喜べない」(日経、本紙)というわけである。
各紙が内需の弱さ、不振、低迷を懸念するのも、尤(もっと)もである。個人消費については、給与などの実質雇用者報酬が前年同期比で3・0%増と「1996年以来の高い伸びで、雇用情勢の改善を背景に所得環境は上向いている」(日経)にもかかわらず、である。
◆賃上げ努力求める読
では、なぜ消費は伸びないのか。読売は、「デフレで染み付いた節約志向が根強く、消費者の財布のヒモが緩まなかったのだろう」とし、日経は「年金や介護など社会保障への将来不安から、若年層を中心に貯蓄を優先しているからではないか」と分析する。
要因は各世帯の収入状況の違いなどもありさまざま。どちらも正しく、何に重きを置くかの程度の差の問題なのであろう。
では、消費を伸ばすにはどうしたらいいか。読売は、まず企業に対して、来年の春闘で4年連続となる賃上げに向けた努力を求めた。さらに、非正規雇用者の待遇改善や正社員化などによって、「雇用・所得環境が継続的に改善するとの見通しを、消費者に持ってもらうことが大切だ」と強調したが、妥当な指摘である。
政府に対して同紙は、日経と同様、年金など社会保障の将来不安を和らげる制度改正も消費促進につながる、として、社会保障・税一体改革の具体的な道筋を早急に示すべきだとした。
内需のもう一つの柱である設備投資も深刻である。7~9月期は3期ぶりにプラスに転じたが、0・03%増とほぼ横ばい。読売は「企業の成長期待の弱さを示した」と指摘し、日経はさらに「人口減が続く日本経済の将来の成長力に企業が確信を持てずにいるのが一因とみられる」とした。
◆消費増税で内需低迷
日経が指摘する人口減による影響は、中長期的あるいは趨勢的な見方であり、短期的に確実に言えるのは、読売が指摘する「成長期待の弱さ」であろう。そして、その企業の成長期待が弱いのは、国内外とも相応の需要が見込めないからだが、こと国内に関しては、各紙とも指摘がなかったが、その後の内需の低迷を招いた14年4月の消費税増税の影響が、何と言っても大きいだろう。
現状に至っては、「社会保障制度の持続性を高めて若年層の将来不安を和らげつつ、規制改革などの構造改革を再活性化する。そんな安倍政権の課題を今回のGDPは示唆している」との日経の指摘はその通りと思うが、消費税増税を強く支持し、結果的に現状を招くことにつながったことについて、同紙はどう考えているのか。
産経の「不確実性に…」は、主としてトランプ氏が次期大統領になる米経済の変化を示しているが、この点の懸念は各紙とも同様で、外需主導の成長が続けられるかについても不透明で一致している。
朝日、毎日、東京は16日までに論評なし。15日に閣議決定した「駆け付け警護」などの方が気になるようである。
(床井明男)