死のタブー視と終末期医療の質との関連性伝えた「外国人記者は見た+」

◆理想はぽっくり死?

 「TVやインターネットでは出会えない“もう一つの目線”が『新たなニッポンのカタチ』を浮かび上がらせる、新スタイルのニュース番組です」

 これはBS-TBSの毎週日曜夜10時放送の「外国人記者は見た+」の宣伝文句だ。日本の文化的特徴は、外国との対比によってより鮮明となることがある。日本文化について、外国人がしばしば優れた論文を発表するのはこのためである。日本に長く住み、日本語に堪能な外国人ジャーナリストたちの目に、日本人や日本文化がどう映っているのか。それを知る上で、この番組はなかなか有益である。

 10月30日のテーマは「『延命』? 『尊厳死』? どうする終末期医療」。サブタイトルに「安楽死は認められるべきか?」とあった。超高齢社会を迎え、医療経済を含めさまざまな面から終末期医療の在り方が問われ、また高齢者の孤独死も社会問題化しており、時宜にかなったテーマである。

 出演者は、サンドラ・ヘフェリン(ドイツ人)、ティム・ケリー(英国人)、ジェームズ・シムズ(米国人)、ユン・ヒイル(韓国人)、ナジーブ・エルカシュ(シリア人)の5人。全てコラムニストやジャーナリストだ。それに、ゲストとして川渕孝一(東京医科歯科大学大学院教授)が加わった。川渕には「生と死の選択」(経営書院)という著書がある。

 まず、米コロラド州出身のタレントで、司会を務めるパトリック・ハーランがどんなふうに死にたいか聞いた。「ポックリ死にたい。雷に打たれてとか、元気で死にたい」と答えたのはティム。この質問をすれば、「ピンピンコロリ」と答える日本人が多いし、英語にも「ドロップ・デッド」(ぽっくり死)という言葉があるのだから、死に方としてピンピンコロリは万国共通の理想なのだろう。

◆医者任せで延命治療

 次に、番組は英誌「エコノミスト」が昨年発表した「死の質ランキング」を紹介した。これは終末期医療の質や経済的な負担などを数値化して総合的に割り出したランキングで、1位英国、2位豪州、3位ニュージーランドの順。日本は14位。

 トップの英国では、ホスピス制度が充実しており、治療も精神的なケアも無料で受けられるとティムが説明した。さすが「ゆりかごから墓場まで」の国である。

 それを受けて川渕が次のように解説した。英国はホスピス発祥の地。日本でも増えているが、現在は7000ベッドくらいしかなく、2、3年待ちのケースが多い。しかも専門医が100人にとどまっているというのだから、日本のホスピスはまだインフラ整備が遅れているのは間違いない。

 そうなると、終末期の選択肢が少なくなる。海外の場合は、ケア施設で臨終を迎える人は多いが、日本では4人に3人が病院で亡くなる。ここで重要だったのは、川渕の問題提起だ。

 一つは、政府が現在、在宅ケアを推進していること。「死ぬのは畳の上で」と希望する人が多いのだから、この方針は間違いでない。しかし、在宅ケアが充実していないことは、孤独死という深刻なケースを増やしてしまっている。

 もう一つは、終末期に胃瘻や点滴など延命治療を続けること。本人と家族が最期をどう迎えるのかを話し合わないから、医師任せとなる。結局、医師の裁量で、積極的な治療が多くなるのである。医師の間ではまだ、「死は医療の敗北」との考えが強いのが日本だ。

◆死の議論少ない日本

 最後に、テーマは尊厳死や安楽死の是非に移った。この問題はそれぞれの死生観によって考え方が違ってくるから、議論を深めるには死をタブー視しないことが不可欠。しかし、外国人5人中4人がそれぞれの出身国と比べて、日本の方が死について議論しないと答えた。ナジーブだけはアラブ諸国の方が議論しないと指摘した。

 「(死をタブー視するのは)仏教の影響なのかな」と分析したのはジェームズ。また、「死んだら天国に行く、あるいは親に会える」と、キリスト教の影響で死を楽観的に考えるのではないか、との意見もあった。これに対して、川渕は「日本人には宗教観がないから、死んだらどこに行くのか、というのがない」と述べた。

 終末期医療を充実させるには、死をタブー視する風潮から抜け出し、一人ひとりが必ず迎える死について深く考えることからスタートしなければならないことを浮き彫りにした番組だった。(敬称略)

(森田清策)