待機児童増加の解消策 家庭保育で需要の抑制を
量的拡大で「質」が低下
先月、厚生労働省が発表した今年4月1日時点の全国の待機児童数は2万3553人、2年連続増となった。昨年度は新たに約9万5000人分の受け皿を整備したにもかかわらず、それを上回る新たな需要が生まれるという、悪循環に陥っている。
全国の待機児童の3分の1を占める東京都では、保育用地の確保が難しく、杉並区では公園の保育施設への転用をめぐって、「子供の遊び場がなくなる」など、地域住民同士の抗争に発展している。
待機児童が解消されない理由は、端的に言えば、男女共同参画と少子化を背景に「子供を預けて働きたい」と考える親が増えたからである。仕事と家庭の両立支援として、働く親の保育ニーズに合わせて、規制緩和を中心に量的拡大を図った結果、子供の安全・安心を損ねかねない保育の「質」の低下が起こっている。
頻発する保育事故や保育環境の悪化への懸念があるにもかかわらず、2017年度末に待機児童ゼロを目標に掲げる政府は小規模保育所の設置基準を緩和、小学校教諭も保育可とするなど、さらなる規制緩和による量的拡大を図っている。9月8日、東京都の小池知事は100億円規模の補正予算を組み、年度内に新たに約5000人分の保育拡充策を発表。2歳以下を対象とした小規模保育所の年齢制限を撤廃し、3歳以上も利用できるように、特区としての認定を政府に要請した。
待機児童解消の目玉と言われる低コストの小規模保育所については、保育の専門家から懸念の声は強い。8月、東京大学の発達保育実践政策学センター(秋田喜代美センター長)が発表した「全国の保育所や幼稚園の保育環境に関する調査」では、子供が遊ぶ園庭など外遊びの環境が確保されているのは、東京23区では認定こども園や認可保育園が5割に対して、小規模保育所は2割。他の政令都市と比べて、施設間の格差が最大だったとしている。
9月27日、東京都の区長や全国の首長を招いた、厚生労働省の「待機児童対策会議」では、文京区の成澤廣修区長が「保護者の就労の為に子供の最善の利益を犠牲にしてはいけない。保育の質に関わることを特区でやるのは違うと思う」と述べるなど、保育の質の低下を懸念する意見が挙がった。
育児休業制度の充実を
小規模保育所の年齢制限を撤廃するという東京都の緊急対策は、潜在的保育需要を考えれば、あまりに場当たり的である。そもそも認可と認可外、施設間でサービスの格差がある限り、保育の全体量を増やしても、抜本的な解決にはつながらない。
人口過密な首都圏では、用地や人材、財政上の観点から保育の量的拡大は限界に来ている。待機児童問題は確かに喫緊の課題だが、コスト負担を考えれば、保育需要を抑制していく方向で考える必要がある。何よりも、子供の発達的観点から言えば、乳幼児期は施設での集団保育はなじまない。フランスやスウェーデンなど出生率が高い国では充実した育児休業制度と育児手当により、0歳児は家庭保育が基本である。近年は、子供の保育利用時間を見直すなど、保育の質向上に力を入れている。
政府の働き方改革の議論が進むなか、厚生労働省の労働政策審議会が、現行の最長1歳半の育児休業取得期間を延長する方向で法改正の検討を始めた。これは、子供の健全発達と親の子育てを保障するだけでなく、高コストの低年齢児の保育需要を減らすことにもつながる。
待機児童ゼロは潜在的保育需要を喚起し、結果的に低コストの認可外保育所を増やすだけである。乳幼児期の重要性を考えれば、低年齢児の保育需要をできるだけ抑制し、家庭保育で補うのが現実的である。