ロシアとの戦略的対話 新関係は潔い4島返還で
孤立に追いやる米欧
プーチン大統領の今年12月の来日が決定し、北方領土問題かつ今後の日露平和条約交渉の展開に我が国では大きな関心を呼んでいる。戦後70年以上たった今、両国の打開策に期待が集まる。
ロシアは冷戦後、「疑念」と「トラウマ」の時代を過ごしてきた。プーチンが政権を取って以来、国内外において帝国ロシアの栄光の再建を狙っている。結果、ロシアはクリミア侵攻以降、欧州連合(EU)による経済制裁が原因だけではなく、直近ではシリア停戦停止でますます国際社会で孤立に追いやられている。
例えば、EUとロシア間の「特別な関係」の難しさは一言でいうと「対話」だ。冷戦終了以来、EUとロシアの軌跡を辿(たど)ると、全く違う道を歩んでいる。国家の枠を超えた欧州統合を推進したジャン・モネ(1888~1979)はインテグレーションにより経済発展を目指した。
EUは現在さまざまな局面を迎えているものの、重要なのは加盟手続きなどで示される合法性が国際的に評価されてきたことだ。これは諸外国がEU市場にアクセスして存続してきたことが物語っている。ロシアは対照的にいまだなお改革の時代に生き、新たな正当性を追求し続けているのだ。
米国、北大西洋条約機構(NATO)、EUとロシア間の協議は常にどちらかが優勢に立つといったヒエラルキーな関係で、発展し得ないままだ。
NATOが躍起になっているロシアのハイブリッド戦争に対抗すべく、ラトビアの首都リガにNATOの情報戦・サイバー戦の中核組織である戦略軍(Strat Com)が設置された。バルト3国、独、伊、英、ポーランドが加盟しており、さらに米、蘭とともにNATO加盟国でないフィンランドも資金拠出国になっている。NATO加盟国ではないスウェーデンも加盟を検討している。
米国の民主党全国委員会(DNC)幹部らの電子メールが流出した問題で、オバマ政権はロシアの諜報(ちょうほう)機関によるハッキングと結論付け、大統領選挙そのものを脅かすと断固抗議する声明を出した。
去年3月、第1回日露サイバー協議が東京において開催されたものの、具体的な協力の方向はまだ示されていない。
先月、ロシアの複数あるインテリジェンス機関を統合した新機関「ロシア連邦国家保安省(MGB)」についてロシアのメディアが報道した。これはスターリン時代に与えられていた諜報機関の名前と一緒だ。果たして、ロシアが誇るインテリジェンス力はどこに生かされるのか。
内外に未来志向示せ
我が国の外務省の一貫した北方領土問題解決に向けた努力に、改めて敬意を表したい。戦後我が国政府は、一切の妥協を見せず北方四島の帰属を求め続けている。先日の国会答弁においても、安倍首相は政府として、北方領土は日本の固有の領土という不変の立場を示した。
景気低迷により財政が逼迫(ひっぱく)し、原油安の長期化で原油輸出に依存できなくなっていることから、ロシアの最後の切り札であるエネルギー外交も難しい立場を迫られている。先月ウラジオストクで開催された第2回東方経済フォーラムにおいて、水力発電への出資、ガススワップ取引の可能性など前向きな姿勢が示された。日露の経済協力が両国にもたらすメリットは大きい。
上記に述べたロシア孤立の現実があるからこそ、また、米国側もロシアとの関係を具体的にどう構築すべきか模索する中、ロシアは我が国に北方四島を潔く返還し、日露平和条約を締結し、未来志向の両国関係を内外に見せることが賢明ではなかろうか。
米国大統領選で共和党候補は日米同盟を根幹から揺るがす主張を繰り返している。皮肉ではあるが、ロシアにとってこのような日本を揺さぶる外部環境が整っている今、新たな協力関係構築の可能性を示すチャンスを逃さない手はない。(敬称略)