現代技術の盲点を書き切れていないNW日本版「リチウム電池」事故

◆発火のリスク抱える

 たかが電池、されど電池…の話題。ボルタの電池が発明されて以来、営々と続けられた電池開発は、今や最新の化学知識と技術が凝縮され製品化され、一大産業に膨れ上がろうとしている。そのトップランナーの一つがリチウムイオン電池。ところが電力が強く、寿命も長いという利点とともに、今のところ「発火」というリスクを抱えている。

 ニューズウィーク日本版9月27日号「燃えるべくして燃えたリチウム電池」は、その周辺事情をまとめた記事だが、結論から言うと、現代の科学技術の盲点をえぐりだし切れていない。

 「先月発売されたサムスンの新型スマートフォンが、発火騒動を巻き起こしている」という書き出し。問題の端末は人気の「ギャラクシーノート」だった。「既にサムスンはユーザーに対し代替品との交換を呼び掛け、アメリカの消費者製品安全委員会も100万台規模のリコールを宣言」している。

 ところがその発火の原因がはっきりつかめていないのだ。「今回のサムスンの発火問題では、セパレーター(注・回路ショートを電極側で防ぐポリマー膜)に不具合があったという指摘がある。サムスンも、セパレーターの不具合を否定していない。いずれにせよ、電池の品質改善が問題解決には欠かせない」と、記事では「品質改善」の必要性を強調するにとどまっている。

 リチウムイオン電池を発明したのはノーベル賞候補にもなっている吉野彰氏(旭化成顧問)で、日本企業が所有する技術が先行している。ただし「90年代、リチウムイオン電池分野は競争が過熱し(中略)00年前後からこれらの企業が製造工場を韓国や中国に移すと、電池の不具合が上昇。06年に960万台のソニー製電池が回収されるという、家電史上最大規模のリコールを招いた」というのが実情だ。

 また「90年代後半から00年代前半にかけてリチウムイオン電池に安全性の懸念が提起され、回収騒ぎが起きたこともある。カメラ、ノートパソコン、スマートフォンなど、リチウムイオン電池を採用したあらゆる電子機器が対象になった」のも事実だ。

◆知識の細分化が足枷

 実は、高度に技術化された現代社会は、その一つ一つのシステムが統合されていないという問題点を抱える。それは諸知識が細分化され、それを融合、統一することの難しさの故でもある。

 例えとしてよく出されるが、目玉焼きを作るには、熱したフライパンに油を入れ、そこに卵を割って一定時間焼くと簡単にできあがる。ところがこの現象の分析には、熱伝達理論、熱伝導理論、タンパク固化、流動理論、表面科学、力学、幾何学…などによる知識が要る。そして目玉焼きの正体は、ほぼ完璧にこれらの理論で説明できる。

 しかし、逆にこれらの知識に関する専門家を集めて、それぞれの知識を基に分業させることで、おいしい目玉焼きはできるだろうか、いや決してできないだろう。知識体系が非常に細分化され、総合化できないからだ。

 イギリスで始まった産業革命以後、こういった細分化された知識は増殖に増殖を重ね、今や、技術システムは複雑化しその全体が見えてこないのだ。その弊(へい)のなれの果てとも言える問題の一つが、このリチウムイオン電池の事故でも見られる。

 事故の原因がなかなか特定されにくく、従って対症療法がままならない。ポイントは三つほどあるが、この部分を強化すれば今度はあちらが立たないという事態も。記事ではここらへんを書き込んでほしかった。

◆電気自動車には必須

 一方、国内総合化学2位の住友化学などは20年の長きにわたり研究開発を進めてきたものの、広く事業化できずに今日に至る。その住友化学が先日、主要4部材の一つの正極材なる部材で、正極材メーカーの田中化学研究所を連結子会社化すると発表した。電気自動車に欠かせないからだ。

 文明を進化させ、発展を支えてきたのは科学技術であり、その基本にエネルギー利用があった。しかもエネルギーとは直接関連しない社会の分野にもその根幹において貢献している。

 リチウムイオン電池1個に込められているのはエネルギー・物質の流れや変換を行う現代技術の粋だ。だからこそ決してあなどれない「発火」なのだ。

(片上晴彦)