中国の「水戦略」の影響を強調すべきだったNW日本版の水関連記事
◆メコン川襲う水不足
ニューズウィーク日本版(8月2日号)で、インドシナ半島を縦断する国際河川メコンでも、水不足が急速に悪化していることを伝えている。題して「メコン川を襲う世界最悪の水危機」。
日本列島は今夏、当初は水不足が心配され、注意も喚起されたが、今はその報道もかなり沈静化している。わが国は水に恵まれていながら昔から水不足に悩まされ、一方では洪水の害を受けてきた。そのため「水は天からもらい水」という言葉もある。水は、人智ではどうにもならない授かりものであるというのが多くの人の実感だろう。ともかく水の供給に関しては割と楽観的である。
しかし世界を見渡せば、恒久的に水不足に悩まされ、それが死活問題となっているところが少なくない。また将来的に最悪、居住さえ危うくなる可能性を言及されるところもある。カンボジアやベトナムなどメコン川流域の密集する居住地域もその一つ。
記事では「昨年から今年にかけ、干ばつはカンボジアの62万世帯以上を直撃し、さらにベトナムなど近隣諸国の数百万人に被害を与えている」と伝えている。
干ばつの原因の一つが、「過去最大規模のエルニーニョ現象が猛威を振るい、ここ数年は世界各地で異常気象が起きている」ことで、この地域はその影響をもろに受けている。同現象によって、乾期の場合、雨がほとんど降らなかったり、逆に記録的な洪水や嵐に見舞われるという両極端の現象が起きて、人々を大きな不安に陥れている。
◆ネックは中国のダム
当欄で特に問題にしたいのは、もう一つの原因の方で、「上流の中国で始まり、地域全体で建設の進められたダムの数々も大きな問題だ」という点。
「ダムの潜在的影響はまだはっきりとは分からない。『メコンデルタ地帯が将来も人が住める状態であるのか、作物はどれほど育つのか、予測は困難だ。それでも現在の気候変動とダム開発のペースでいけば、この地域は原形をとどめないほど変わり果てることになる』」という識者のコメントを載せている。
記事の中にはないが、中国がこの20年ほどの間に次々と建設したダムによって、乾期の水量がかなり減少する傾向が、指摘され続けてきた。にもかかわらず現在、干ばつなどで水量が目に見えて減っているのに、くだんの中国のダムにおける水の放出が制限されている。
ただ、中国側もメコン川は交通要路の一つで、干上がってはそれを失ってしまうことになるので、その手加減はもちろんある。しかしメコン川流域の多くの住民の飲料水、農業用水など民生用の水確保のための手当てについては消極的だ。
もともと中国は世界でも水資源の乏しい国。1人当たりの水資源は世界平均の約4分の1しかない。またその8割が揚子江以南に偏っており、人口増加や経済発展に伴って、北部の水不足は年々深刻さを増してきている。河口まで流れてこない黄河の断流はこの20年、1年の3分の2に及んでいるという。
また工業用水も非常に重要で、水の使用量が多い製鉄、化学工場から電子産業に至るまで、十分にきれいな水供給が欠かせない。中国ではこの産業用の良質の水不足が深刻で、そのため経済成長の鈍化も予想される。
◆水戦争仕掛ける中国
結局、中国は国を挙げて、飲料水や戦略物資としての水確保を目指し、大きく見ると、欧米先進諸国に対し、水戦争を仕掛けてきているとも言える。その「水戦略」の一環としての水路、水脈の利用が、アジア各地の河川に大きな影響を与えているという側面が大きい。その点をもっと強調すべきだ。
記事では、中国のダム建設の勢いがこのまま続けば「川の流れやそこにすむ魚に影響する。水深が浅くなって魚の生息域が奪われ、ダムで多くの動物が移動ルートを妨げられて生存が難しくなる。メコン川に水や食料を依存して生活する6000万人の人々も大打撃を受けるだろう。/厳密にどんな対策を取ればいいのかもはっきりしないままだ」と嘆いている。
ほかに、ベトナムやカンボジアで、農業従事者の作物栽培の開発模様などが紹介されている。しかしその規模は小さくスピードも遅く、水危機の克服策としては悲観的にならざるを得ない。
(片上晴彦)