効果的なNATOの東欧派兵、強力な対露抑止力に
EUを脅威にさらす英離脱
【ワシントン】オバマ大統領は「冷戦後、最も大きな集団的自衛力の強化」と呼んだ。多少の誇張もあるだろうが、一定の成果は挙げている。ワルシャワで先週行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、東欧への派兵が決定した。ロシアの進出と挑発に対する西側からのこれまでで最強の対応だ。
ウクライナをめぐる経済制裁は弱く、実質を伴わず、ロシアを少し困惑させる程度にすぎない。結果的にはロシアを勢いづかせただけだった。米国の艦艇に接近したり、欧州の海域に侵入したり、バルト諸国に脅しをかけた。
NATOは、前線の国々に4個大隊を派遣する。エストニアには英軍、リトアニアにはドイツ軍、ラトビアにはカナダ軍、ポーランドには米軍が配置される。十分な規模ではないし、恒久的な派兵ではないが、重要な意味を持つ。
万が一、これらの国にロシアが侵攻すれば、駐留軍がまず応戦し、NATOとの全面的な戦いとなる。冷酷な方法だが、このような方法は、冷戦中の欧州の平和を守るために使われ、現在の朝鮮半島の非武装地帯(DNZ)沿いの安定もこの方法で保たれている。緑の戦闘服を着た所属不明の「リトル・グリーン・マン」が、住民の約25%がロシア人のエストニアを乗っ取ろうとする可能性が高い。プーチン大統領がクリミアで、偽装しながらゆっくりと進めた侵攻がこれだった。NATO軍の配備は、侵攻を押しとどめ、応援を呼ぶには十分かもしれない。
プーチン氏へのメッセージは明確だ。ジョージアとウクライナの一部は占領されたが、両国はNATO加盟国ではなく、NATOの領域はNATOが守るということだ。
バルト諸国にとっては歓迎すべきことだ。バルト諸国は、西側の冷戦勝利後、独立が果たされ、過去に逆戻りすることはなくなったのかどうか確信が持てずにいるからだ。その迷いは、プーチン氏の報復主義、とりわけウクライナへの侵攻に対して、NATOが毅然(きぜん)とした態度を取れなかったことが原因だ。オバマ氏はまだ、ウクライナに自衛用の兵器すら供与する気がない。それ以前もずっと米国はプーチン氏に対し融和策を取ってきた。ポーランドとチェコへのミサイル防衛システムの配備を中止し、最近ではロシアがシリアで支配的な地位を獲得するのを指をくわえて見ていた。
レーガン大統領を生んだ党の大統領候補指名予定者が、NATOに無関心な態度を取り、離脱する可能性すら示唆するのを見て、東欧諸国はどう思っただろうか。
NATOの決定は、英国の欧州連合(EU)離脱決定から2週間というタイミングを考えれば、さらに重要な意味を持つ。英国の離脱は、西側の統合と連帯を支える柱であるEUの未来を脅威にさらすことになる。NATOは今回の派兵決定を受けて、結束を強め、西側の協調と共同行動のための重要な役割を果たし、今後はほぼ完全に大西洋の向こう側、つまり米国の支配下に置かれることになる。
EUは、崩壊することはなくても、英国抜きの新たな体制を構築するまで何年かかかるため、内向きとなるのは避けられない。英離脱で最大の恩恵を受けるのはプーチン氏だ。西側同盟が分裂すれば、漁夫の利を得られるのはロシアだからだ。だが、NATOが結束し、対応を強化することになった。
オバマ大統領が好きだったロシアとの「リセット」外交が無残に失敗したことを考えれば、NATOがしっかりし、プーチン氏に対抗することは、重要な戦略的成果だ。次期米大統領に一つの指標を残し、東欧諸国を安心させ、プーチン氏には、バルト諸国でウクライナと同じことを繰り返すのを思いとどまらせる効果がある。
しかし、西側の秩序は依然、全体主義拡張主義国家のトロイカの残る2カ国からの圧力を受ける。中国とイランだ。挑発が弱まることはない。米国の次の課題は、ハーグの常設仲裁裁判所が12日に下した判決に中国が強く反発し、拒否していることだ。判決は、中国の南シナ海での領有権の主張、軍事施設の建設などを真っ向から否定するものだった。
しかし米国が行動しなければ、仲裁裁の判決もただの紙切れだ。「国際的規範」の順守について大国にレクチャーするのはいいことだ。しかし、環太平洋諸国は、米国が実際に行動することを期待している。
イランに関して米国は行動しない。悲惨な融和策が続いている。イランの核合意違反に目をつぶった。最近では、ドイツで不法に核技術を入手しようとした。さらに、商業会議所か何かのように振る舞い、イランに対する約100機のボーイング機の売却で米政府は便宜を図った。イランでは、シリアでもそうだが、民間機が軍の輸送機として日常的に使用されている。
東欧への派兵は、台頭する修正主義勢力に対抗するにはまずまずの第一歩だ。歓迎はするが、この7年半は何だったのかという苦々しい思いは残る。
(7月15日)