南シナ海判決、中国は真摯に受け止めよ


 オランダ・ハーグの仲裁裁判所が、中国の違法行為を明示した。南シナ海問題をめぐる判決で、中国が主張する南シナ海のほぼ全域にわたる管轄権について「歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」と判断した。

 「九段線」に根拠なし

 この裁判は、南シナ海における中国の海洋進出をめぐってフィリピンが3年前に提訴したものだ。判決では、中国が海域のほぼ全体での主権を規定する「九段線」には国際法上の根拠がないと認定し、「九段線の内側にある資源に対して中国が歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」という判断を示した。

 南沙(英語名スプラトリー)諸島などで中国が人工島を造成している場所についても判断を下した。スカボロー、クアテロン、ファイアリクロスなどの各礁を島ではなく岩と認定し、排他的経済水域(EEZ)は設けられないとの結論だ。

 中国政府はこれを真摯(しんし)に受け止めなければならない。習近平政権への国際的な圧力が強まるのは必至だ。同時にフィリピン政府は今後の中国の動向を厳重に監視し、判決に反する行為には毅然(きぜん)たる態度を取るべきだ。

 発足したばかりのドゥテルテ比政権は、対中関係の改善や中国との南シナ海共同開発などを公言している。ヤサイ比外相は「南シナ海で米国は自国の利益を追求しているだけ」とまで言っている。ドゥテルテ大統領が米国嫌いで中国利権の経済界とつながっているともみられる。

 判決を履行させる強制的な手段はない。だが、中国の行動に懸念を示す異例の判決だ。ヤサイ外相は「南シナ海をめぐる問題の解決に向けて重要な役割を果たすと確信している」と述べた。ドゥテルテ大統領は弱腰であってはいけない。

 スカボロー礁はフィリピン・ルソン島の西方沖約230㌔と近く、かつてはフィリピンが支配していた。1992年に米軍がフィリピンから撤退した後、空白を埋めるような形で中国が入り込むようになり、12年にフィリピンとのにらみ合いの末、中国が実効支配するに至った。

 フィリピンの軍事力は決して大きくない。フィリピンは14年に締結した「米比防衛協力強化協定」に基づき、国内5カ所の空軍基地内に一時的ではあるが米軍の駐留を受け入れた。

 6月には、南シナ海に近いクラーク空軍基地に米海軍の電子戦機「EA-18Gグラウラー」4機を配備した。また米比両国は合同軍事演習「バリカタン」を4月に実施した。両国の防衛協力の強化を歓迎したい。

 中国は近年、西沙(英語名パラセル)諸島にミサイルを配置し、南沙諸島では七つの岩礁を埋め立てて人工島を造成するなど、実効支配を既成事実化しようとする動きを強めている。

 今回の判決について、中国外務省は「無効で拘束力はない。中国は受け入れず、認めない」とする声明を発表した。このまま中国が強引な海洋進出を続ければ、南シナ海は中国の内海になってしまう。

 「紙くず」にするな

 南シナ海は年間5兆㌦相当の物資が通過する海域である。天然資源も豊富だ。今回の判決を「紙くず」にしてはならない。