テロとの戦い/情報機関設置など態勢づくりの必要説く産経と小紙

◆各紙とも厳しい非難

 朝日「断じて許すことのできない卑劣な凶行である」(4日)。毎日「もはや日本人がどこでテロに巻き込まれてもおかしくない」(5日)、「卑劣極まりない犯行と言うしかない」(3日)、「罪もない人々を無差別に殺傷する非道な手口に、改めて強い怒りを覚える」(6月30日)。読売「卑劣なテロである」(3日)、「空の玄関口を狙った卑劣な犯行である。断じて許されない」(2日)。日経「外国人を狙った卑劣な犯行である」(3日)。産経「非道なテロへの怒りを抑え切れない」(5日)、「どんな理由があれ、恐怖と暴力に訴えるテロ行為は許すことができない」(3日)、「卑劣なテロは、いかなる理由があっても断じて許されない」(6月30日)。小紙「痛恨の極みである」(4日)、「卑劣なテロは、決して許されない」(1日)――。

 バングラデシュで開発支援に取り組む日本人7人を含む人質20人が犠牲となった1日夜のダッカのレストラン襲撃テロ。死者約170人となった3日に2件相次いだイラク・バグダッドの爆弾テロ。トルコ・イスタンブールの国際空港で40人以上が死亡した先月28日の爆弾銃撃テロなど、「イスラム国」(IS)などイスラム過激派により無辜(むこ)の人々が犠牲となる凄惨(せいさん)なテロが続いている。

 今やテロは紛争の絶えないイラクやシリアなどISが根を張る中東イスラム圏だけの出来事ではなく、ISの影響を受けた中東出身ではない若者らが欧米やアフリカ、アジアの自国で引き起こしている。しかも、ターゲット(標的)となるのは警備が比較的緩くて誰もが利用し集まる劇場やレストラン、空港など「ソフトターゲット」を狙う傾向になってきた。リスクのある特別な施設や場所ではなく、通常の「日常空間」も安全とはいえなくなってきた。

◆踏み込んだ提言なし

 それは「宣戦布告なき第三次世界大戦が起きている」(作家・佐藤優氏のコメント=産経3日付)と言っても過言ではない。当然、中東からは遠く、四方が海に囲まれ比較的、テロとは無縁できた日本でも、今後はテロが起こり得るものとしての対策と対応を迫られる。ジャカルタでも今年1月に30人以上が死傷するテロ事件が起きているのだ。

 一連のテロ事件に対して、この1週間ほどの間に各紙は毎日と産経が各3回もの頻度で論調(社説、主張)を掲げた。読売と小紙は各2回、朝日と日経が各1回である。その主張は冒頭の引用で分かるように、自由と民主主義、人権の価値観の確立した国に暮らす普通の人々と気持ちを共有して、いつもの表現とはいえテロの非道、卑劣さへの憤りをよく示している。

 問題はここからである。では大規模テロの脅威に対して、政府は国民の安全と命を守るためにどうしたらいいのか。

 各紙が指摘するのは、ここでもすでに言われてきたことを繰り返すだけなのが歯がゆい。3回も社説を出した毎日は「政府は、国際社会と危機感を共有し、連携しながら、テロ対策を強化」を言う程度。朝日も「各国政府は綿密に情報を共有し、資金や武器の流れを断つ」などテロの拡散防止での結束強化を求める必要を説くだけ。読売はこれらに「在留邦人や旅行者への危険情報の発信に努め」ることを加え、日経も「政府は渡航先の安全情報を効果的に知らせる方法を考える」ことを求めたぐらいでお茶を濁した。

 要するに、どれもこれも付け焼け刃き的に注意喚起するだけで、なぜ政府間の情報共有が進まないのかの理由にまで踏み込んだ主張や提言がないのは物足りない。

◆共謀罪論議に臆する

 テロとの戦い(テロの拡散防止)では、伊勢志摩サミットでも対テロ行動計画で各国の情報共有やテロ組織への資金流入阻止などをうたうが、これに言及したのは産経と毎日である。

 産経はさらに、各国との情報共有の態勢づくりの遅れが問題だと指摘。「共謀罪の創設など、テロとの戦いで国際連携に加わるための法整備や、独自の情報機関の設置といった態勢づくりは、遅々として進んでいない」ことを憂慮し、情勢は「もはや猶予はない」と迫る。小紙も、どの主要国にもある「秘密情報収集機関の創設が緊急の政治課題」と主張しているが、なるほど、他紙が問題の本質に具体的に踏み込むのをびびるのは、共謀罪などの論議と向き合いたくないからなのかと推し量るのである。

(堀本和博)