ダッカ・テロで不公正の解消など若者過激化阻止への方策欠く現地紙

◆過激化の原因触れず

 バングラデシュで日本人7人を含む20人が殺害される大規模テロが発生、衝撃を呼んだ。地元紙は、「イスラム国」(IS)の国内の存在を認めず、野党勢力への締め付けを強めてきたハシナ政権を非難する声が強い。だが、テロが発生するたびに指摘される貧困や社会的腐敗、イスラム過激思想など、若者を過激化させる原因にまでは触れられないのが実情だ。

 バングラデシュでは近年、武装組織による殺人事件が頻発、過去3年間で40件に及び、過激組織の勢力拡大に対する警戒感が高まっていた。国内でのISの存在も指摘されていたが、ハシナ政権は国内のISの存在を否定し、テロ対策は後手に回ってきた。

 バングラデシュ紙ザ・ニュース(3日付電子版)は、社会的分断がテロを招いたと指摘する。「右派と世俗派の間の分断が国内で進んでいる。与党アワミ連盟は、これらの分断を基盤固めに利用できると考えている」と政府の対応を批判した。

 同紙は、頻発する殺人事件で「ブロガー、宗教的少数派、警官、援助活動家、今回は外国人が標的となった」と指摘しており、世俗派、非イスラム教徒が狙われていることが分かる。ISとアルカイダが国内でのテロを予告していたが、政府はこれらを無視してきた。6月なってようやく取り締まりを強化し、1万人以上が逮捕されている。

 ザ・ニュースは「規模が小さ過ぎ、遅過ぎる。ダッカのレストランでの残忍な攻撃は、この国が直面している国内の脅威がいかに深刻かを示している」と主張する。

◆閉塞感から引かれる

 しかし、今回のテロで治安部隊が殺害した実行犯を見ると、富裕層、高学歴の若者が多い。留学経験者、外資系企業幹部の子弟、与党アワミ連盟幹部の子弟など、社会的に恵まれていた若者らだ。いずれも数カ月前から自宅に帰らず、行方不明になっていたというから、その間、イスラム過激組織と合流し、そこで思想教育、武器の扱い方などの訓練を受けたとみるのが自然だろう。全国で行方不明になっている若者も多く、イスラム過激組織に参加しているのではないかとの見方も出ている。

 貧困や社会に受け入れられないことが原因で過激思想に走るケースは、中東や欧州でのテロでよく指摘されているが、今回のテロも、人間関係や就職などでの挫折が過激化の原因ではないかとみられている。そこから見えてくる原因は社会的不公正だ。

 2001年米同時多発テロでも似た現象が起きている。実行犯の一人でエジプト人のアッタは、カイロで大学を卒業をしながら、コネや賄賂が横行する社会の中で職に就けず、閉塞感から、イスラム過激思想に引かれていったとみられている。

 社会的不公正や腐敗が、若者らをイスラム過激組織に追いやる一因となっているとみることができるだろう。

 インド紙ザ・ヒンドゥーは、「政府とイスラム組織との間の緊張が高まり、それによって過激化した組織が活動を促進し、人材募集を進めている」と指摘、政府の過激組織への取り締まり強化がかえって過激組織を勢いづかせていると指摘する。

 ザ・ヒンドゥーは、悪化する治安情勢の改善に取り組むことが急務だとした上で、長期的には「進む過激化を阻止する」ことの必要性を指摘した。リベラル派の与党アワミ連盟は、野党勢力、反政府勢力への締め付けを強めており、「バングラデシュの民主主義が空洞化すれば、恩恵を受けるのは急進派だ」とバングラデシュ政府の対応を批判する。

◆長期的な対策が必要

 だが、社会、経済、宗教面から、若者がイスラム過激思想に走らないための長期的な対策を講じることが必要なはずだ。

 イスラム教徒が、イスラム教の勢力拡大を望むのは穏健派であれ、過激派であれ当然のことだろう。だが、ISのような武力による支配の拡大が間違っていることを示すだけのことだ。さらに、若者の挫折につながる貧困、社会的不公正の解消に努めることをメディアは発信していくべきだろう。

 特にISは、コーランやハディースからきた終末思想に強い影響を受けている。「異教徒なら殺害してもいい」という間違った思想を真正面から否定することはメディアとしての大きな使命だ。

(本田隆文)