朝毎「改憲勢力2/3」の参院選序盤情勢報道は与党に不利な可能性

◆「大勝」何度も外れる

 参院選も終盤に入り、各紙の「情勢報道」も熱を帯びてきた。6月24日付で報じた「序盤情勢」では申し合わせたかのように「改憲勢力2/3うかがう 自民、単独過半数の勢い」(毎日)と与党優位を報じた。

 朝日は「自民、公明の与党で改選議席の過半数を占める勢いで、おおさか維新、日本のこころを加えた改憲4党でも参院全体の3分の2の議席をうかがう」と、与党・改憲派優勢を強調する。

 それで産経抄は「どこが多数派かの情報が流れると、そこへの支持が一層強くなる『バンドワゴン効果』が表れるか。それとも、事前の予測で不利とみられたところに同情票が集まる『アンダードッグ効果』が発揮されるか」と気をもんでいる(25日付)。

 予測報道を受け有権者の投票行動が変化するのを「アナウンス効果」と言う。それをもって当落が左右されるなら、選挙の公平性を損ないかねない。そもそも公職選挙法は人気投票の公表を禁じている。独仏は選挙期間中の世論調査公表を禁じ、韓国は投票日前の6日間禁止だ。わが国は野放しでいいのか、疑問が湧く。

 それに過去の予測報道は何度も外れている。1998年参院選では「自民大勝」と予測したが、結果は惨敗。2000年総選挙は「自民安定多数うかがう」が過半数割れ、03年総選挙も「自民、単独過半数」が過半数割れだ。どれも自民党が“被害”を受けた。

 最近は調査の精度が高まり予測は外れないとされるが、実際は怪しい。14年12月総選挙がそうだ。各紙そろって「与党 3分の2越す勢い」(毎日・同8日付)と、与党圧勝と予測し、とりわけ自民党が大勝するとした。

 毎日によれば、自民の推定当選者数は303~320。地方紙の予測報道を一手に担う共同通信は「自民320+14-15」と、3分の2(317)を超える320の衝撃的な数字をはじき出した(地方紙・同4日付)。

 結果はどうだったのかと言うと、確かに与党で3分の2は超えたが、自民党は291議席にとどまった。毎日の下限は303、共同の下限は305だから、それを10以上下回る想定外の結果となった。大外れだったのだ。

◆アナウンス効果狙い

 自民圧勝の予測報道を受けて、自民支持者は安堵して投票所に足を運ばなかったのか。あるいは与野党どちらにもなびく無党派層が自民の勝ち過ぎを嫌って野党に票を投じたのか。仮にそれを見込んで新聞がことさら「自民大勝」を強調したとするなら、アナウンス効果を狙った確信犯だ。

 今回の予測報道にもそんな匂いがしないでもない。朝日は「(野党4党で)54議席を獲得すれば、非改選の27議席とあわせて81議席となり、改憲発議を阻止する『3分の1以上』を確保することになる」(6月17日付)と、ここを焦点化する。もとより朝日は護憲を唱えているので、改憲派の3分の2超え阻止の思惑は野党と相通じている。

 朝日の世論調査によれば、安倍政権のもとでの改憲賛成は31%、反対は48%(24日付)。自民党だけが強い勢力を持つ今の状況は「よい」23%、「よくない」59%で、とりわけ無党派層では「よい」9%に対し、「よくない」は69%に上っている(20日付)。だから、自民大勝の予測を強調すれば、改憲を望まない人や無党派層が野党に投じるに違いない。そんなアナウンス効果を期待して朝日の「与党3分の2」報道があるように思えるが、どうだろうか。

◆RDD方式は正確か

 そもそも新聞社の世論調査は正確なのかを問う必要がある。現在、コンピューターが不作為に固定電話番号を抽出し、そこに電話して聞く「RDD方式」が主流だ。携帯しか持たない人が増えている時代に固定だけで果たして十分なのだろうか。

 読売は今年4月から調査を携帯電話にも広げたという(4月4日付)。6月の世論調査では固定530人(回答率61%)、携帯542人(同42%)の計1072人から回答を得たとしている(20日付)。他紙は固定だけだが、どちらが正確だろうか。

 とまれ有権者は予測報道に左右されず、自らの信念に忠実であるべきだ。感情に流された「ブレグジット(英国のEU離脱)」な1票にならないよう心掛けたい。

(増 記代司)