キリスト教福音派、トランプ支持で結束できるか

過去のリベラル姿勢に不信感

 米大統領選で共和党の指名獲得を確実にした実業家ドナルド・トランプ氏が、保守的なキリスト教福音派の支持拡大に躍起だ。福音派は人工妊娠中絶など社会問題でかつてリベラルな立場を取っていた同氏に強い不信感を抱くものの、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官が大統領になるよりははるかにましとの観点からトランプ氏支持に動く可能性が高い。

10日、キリスト教福音派系団体がワシントン市内で開催した政治集会で演説する米共和党の実業家ドナルド・トランプ氏

 「私は100%あなたがたと共にいる」。今月10日、福音派系の保守派団体「信仰と自由連合」が開催した政治集会で演説したトランプ氏は、中絶反対や信教の自由擁護、イスラエル支持などを訴え、自らが福音派と価値観を共有する候補者であることを強くアピールした。

 米人口の4分の1を占める福音派は、大統領選の行方を左右する一大勢力。オバマ大統領の下で米社会のリベラル傾斜が急速に進んだことへの危機感から、伝統的価値観や信教の自由を擁護する強力な保守派大統領を誕生させなければならないとの意識が強い。

 共和党予備選では、リバティー大学のジェリー・ファルウェル・ジュニア学長ら一部の有力福音派指導者がトランプ氏支持を表明するなど、同氏は多くの福音派票を獲得した。だが、トランプ氏には2回の離婚歴があり、敬虔なキリスト教徒には見えないことから、福音派全体ではテッド・クルーズ上院議員を支持する傾向が強かった。

 福音派内では依然、トランプ氏に対する懐疑的な見方が強いものの、同氏を支持する以外に選択肢がないのも事実だ。福音派が嫌悪するクリントン氏の当選を許せば、リベラル傾斜が一段と進むことは避けられないからだ。

 ノースカロライナ州のパトリック・レーン・ウッデン牧師は、米メディアに「トランプ氏には大きな不安があるが、それでも同氏が良く見えるのはクリントン氏の存在があるからだ」と述べ、「左翼」のクリントン氏よりは「未知」のトランプ氏のほうがましとの見方を示した。

 連邦最高裁の判断で同性婚が全米50州で合法化されたことが物語るように、大統領が誰を連邦判事に指名するかは米社会に絶大な影響を及ぼす。このため、トランプ氏は、全員保守的な人物からなる最高裁判事の候補者リストを発表するなど、保守派の懸念払拭に努めている。

 信仰と自由連合のラルフ・リード会長は「選ぶのは大統領だけでない。連邦判事も選ぶことになるのだ」と強調。「生涯で最も重要な選挙を傍観するわけにはいかない」と主張し、福音派はトランプ氏支持で結束すべきとの認識を示した。

 トランプ氏は21日にニューヨークで福音派を中心とする宗教保守派の指導者たちと会談する。

 福音派有権者の多くは、クリントン氏が大統領になるのを阻止する観点からトランプ氏に投票する可能性が高い。だが、強固な選挙組織を有するクリントン氏に対抗するには、戸別訪問や電話掛けを行う「歩兵部隊」となる草の根保守派有権者を「反ヒラリー」という消極的理由ではなく、熱狂的に動員できるかどうかが大きなカギとなる。