「北方領土を含む千島列島は引き渡さない」 容認できぬロシア外相の発言


 ロシアのラブロフ外相は、北方領土問題を含む日本との平和条約交渉について「クリール諸島(北方領土を含む千島列島)は引き渡さない」と述べた。

 交渉めぐる対日牽制か

 ラブロフ氏は、交渉は「(日本が)第2次大戦の結果を受け入れることなしには不可能だ」と従来の主張を繰り返した。交渉の進展に対する日本の過度の期待を牽制(けんせい)するとともに、9月の下院選前にロシア世論の動揺を抑える狙いによるものとみられるが、不法占拠を正当化する発言であり、容認できない。

 ウクライナ危機を受け、日本は先進7カ国(G7)と足並みをそろえ、対露制裁に踏み切った。それ以降、領土交渉は停滞し、ロシアのメドベージェフ首相ら閣僚による北方領土訪問が相次いだ。

 安倍晋三首相は停滞を打破するため先月、ロシア南部のソチでプーチン大統領と会談し、平和条約交渉を「新しいアプローチ」で進めていく方針を確認。9月にロシア極東のウラジオストクで再会談することや、事務レベルの交渉を今月に行うことでも合意した。だが、ラブロフ氏の発言で交渉進展に向けた機運がしぼみかねない状況だ。

 北方領土をめぐっては、ショイグ国防相の指示に基づき、ツァリコフ第1国防次官とイワノフ国防次官がクリール諸島(北方領土を含む千島列島)などロシア極東を2日間の日程で訪問しているという。安倍首相はプーチン大統領と会談した際、「領土交渉を静かに進めるためにも、相手の国民感情を傷つける言動は慎まなければならない」とクギを刺した。訪問はこれに逆行するものと言える。

 日本が議長国となって先月開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では、対露制裁を延長する必要性が確認されたほか、首脳宣言ではロシアによるウクライナ南部クリミア半島の違法な併合に対する非難が改めて表明された。

 首脳宣言を受け、プーチン大統領はクリミア併合について「最終的に解決済みの問題だと考えている。住民(投票)の歴史的決定であり、ロシアは誰とも議論しない」と述べた。「解決済み」は北方領土に関しても、ロシア側がしばしば示してきた見解だ。対露制裁を継続するのは当然だと言える。ロシアでは主要輸出品である原油の価格低迷で景気が大幅に悪化し、これに制裁が追い打ちを掛けている。

 安倍首相は首脳会談で、ロシアの医療水準向上やエネルギー開発での連携など8項目の協力プランを提案した。経済協力のカードを切った形だが、領土交渉を進めるための苦渋の決断であろう。

 サミットではロシアをめぐって、安倍首相が関係改善を探ったのに対し、米英は厳しい姿勢を崩さず、温度差があったことも事実だ。安倍首相にはG7の結束を守りつつ、ロシアとの領土交渉を進展させていくことが求められる。

 腰を据えて交渉せよ

 もちろん、領土交渉の行方は予断を許さない。ロシアのサミットに対する反発が続けばなおさらだろう。日本はロシアの出方を見極め、腰を据えて交渉に臨む必要がある。