「ひとみ」の運用断念でJAXAの「ミスの連鎖」を厳しく問うた毎日

◆一縷の望みも潰える

 きょうは「こどもの日」。スポーツや科学、文化・芸術など、子供をワクワクさせ、夢を抱かせるものの一つに、宇宙がある。

 ロケットや衛星の打ち上げ、その技術開発、また衛星や惑星、恒星の天体観測など未知への挑戦、さらには宇宙飛行士になっての活動など、筆者も大いに興味をそそられた一人だが、そんな筆者だけでなくとも、最新鋭のX線天文衛星「ひとみ」の運用断念は実に残念な結果である。

 3月26日から通信が途絶えていた「ひとみ」は、衛星の姿勢制御系のミスから本体が異常回転し、電力を供給する太陽電池パネルなどが分離、機能の回復が見込めなくなったという。ブラックホールや宇宙の謎に迫ると期待され、本格運用に入る直前だった。

 「ひとみ」の異常、運用断念について社説で論評したのは読売、毎日、本紙の3紙。読売は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の運用断念発表(4月28日)前の23日付、毎日、本紙は発表後のそれぞれ30日付、5月1日付である。

 読売社説は、運用断念の前だけあって、見出しの通り、「宇宙の藻くずになってしまう」と悲壮感漂う内容である。

 すでに本体が異常回転しながら飛行していることが確認され、11個に分解していることが分かる。掲載日(4月23日)の時点でも、同紙は「ひとみの復活は、厳しいとの見方がある。それでも、JAXAは機能回復に向け、手を尽くしてもらいたい」と一縷の望みを託すのだが、結果は前述の通り。

◆信頼損なわれる恐れ

 運用断念を受けての毎日社説は、「これで3基連続のトラブルで、日本の衛星運用への信頼が揺らぎかねない事態である」と懸念する。見出しも「連鎖ミスの徹底究明を」である。

 毎日が言う「3基連続のトラブル」とは、まず2000年2月に「アストロE」が打ち上げに失敗。05年7月に打ち上げた「すざく」も、観測装置のトラブルで、予定通りの観測ができなかった。そして、今回の「ひとみ」の「失敗」(同紙)である。

 今回の場合、制御システムの誤作動や、回転を止めようとして噴射した小型エンジンの噴射手順のデータの誤りを事前にチェックできなかった理由は、まだ分かっていない。同紙が「他の衛星でも同様のトラブルが起きないか点検が必要だ」と指摘するもの尤(もっと)もである。

 さらに、同紙が心配するのは「世界の研究者に与える影響も大きい」ことである。

 「ひとみ」は日本だけでなく、米航空宇宙局(NASA)をはじめ世界の研究者200人以上が開発に参加。本格運用開始後は、世界から観測テーマを公募して運用する「公開天文台」になる予定だった。「3月までの試験観測では従来にない高解像度の観測データが届き、研究者の期待は高まっていたという」(同紙)だけに余計である。

 この点は読売も同様で、「日本の衛星運用への信頼が損なわれないか、心配だ」と懸念する。読売が指摘するように、X線天文学は、日本のお家芸とされる。日本は1979年に打ち上げた「はくちょう」以来、計5基の衛星が巨大ブラックホールの観測などで世界的な成果を上げているからである。

◆最新鋭観測機器失う

 さらに今回の断念で読売、毎日が「国際的にも影響は大きい」と懸念を深めるのは、現在稼働している欧米3基の衛星では、「すざく」より性能を格段に高めた6種類の望遠鏡と検出器を備えた「ひとみの代役を務めるのは難しい」(読売)ことである。

 それに加えて、欧州宇宙機関(ESA)が計画している次期X線天文衛星の打ち上げは28年と、12年先まで待たなければならないことである。毎日の「研究に12年間の空白が生じる可能性がある」は言い過ぎにしても、「ひとみ」の最新鋭の観測機器であればこそもたらされるであろう未知の知見が得られないのは、何とも口惜しい限りである。

 本紙は「失敗は付きものとは言え、原因を徹底的に究明し、教訓として今後の開発に生かしてもらいたい」とした。確かにその通りで、毎日が指摘したミスの連鎖は、読売も言及している。JAXAのこれまでの取り組みに教訓に足り得てない部分があるということである。

(床井明男)